現実(リアル)と空想 〜 パラレル 〜
□第五.五章 駆け廻る。
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―――
同日 川上の部屋。
國分は手に何かを握りしめて、躊躇していた。
(ううううっ・・・、皆川さんにこれ、渡さないとなぁ・・・)
―――有明イベントの前。
皆川は國分にこう言っていた。
『いつか、優香里ちゃんのイベントにも呼んでほしいなぁ』
―――と。
そこで國分は『リボコンに呼びたい』と考えていたが・・・。
(外国、だもんなぁ・・・。皆川さんにもスケジュールというものがあるだろうし)
しかも、台湾公演は、日本国内でのチケット販売を行っていない。
理由は、【日本に来られないファンの人のための公演】だからだった。
國分が手に持っているチケットは、彼女がスタッフに頼んで入手した一枚なのだ。
(ううううっ・・・。絶対厚かましいだろうなぁ・・・)
「・・・どうした?」
「ぅひゃあああっ!!」
怪訝そうに、派手に驚いた國分を川上は呆れたように見ていた。
「と、とも子さん・・・?」
「何ぼおっとしてんの?―――それ」
「っ!?」
鋭く、手に持っていたチケットを指さされ、とっさに隠してしまうがばれてしまった物はもうどうすることも出来ない。
「・・・ああ、そういえば、ブログに今度台湾だって書いてあったな」
「見てるんスか!?私のブログ」
「そりゃ誰だって見られるでしょよ」
「うう・・・っ」
恥ずかしさのあまりに顔を赤らめていると、部屋に皆川がやってきた。
「あれ?優香里ちゃん、どうかしたの・・・?―――川上っ!!お前何か言ったのか!?」
「えええっ!?違うよ!!國分が何か戸惑ってたから声かけただけだよっ!!それ、リョーちゃんに渡しに来たんでしょ!?」
「ととととっ、とも子さんっ!!!」
「えっ?」
皆川はきょとんとしてから、國分の次の行動を静かに待っていた。
(ううううううううっ、とも子さんの馬鹿っ!!どうして喋っちゃうんですかっ!!)
チケットを危うくぐしゃりとシワシワにしそうになって、しかし、深呼吸をしてから気持ちを落ち着けた。
「―――これ、もし、良かったら・・・」
恐る恐る差し出す。
指が緊張で震える。
(あうぅ、急だからどうしようどうしよう・・・!!)
否定的なことばかり考えていたが、皆川はゆっくりとチケットを受け取る。
「!」
「―――楽しみにしてるねっ♪」
「・・・え?」
「折角だもん。行かせてもらうよ♪細谷君のライブもまだだしね」
「み、皆川さん・・・っ」
「んじゃあ、パスポート申請しなきゃ!発行まで2週間かかるし、辛うじてギリギリ―――」
「そうなると思って、私が事前にあんたのパスポート、特別に作っておいたわよ」
突然、甲斐田がやってきたと思ったら、皆川に赤いパスポートを放り投げた。
「ふぎゃんっ!!」
「皆川さん!?」
顔面直撃で唸っていると、落ちたパスポートを拾い、念のため確認をした。
「いたた・・・。一体、いつの間に」
「事務所にも連絡しておいたわ。行ってらっしゃいな、純ちゃん」
「相変わらず行動早いですね〜〜、甲斐田さん」
「ドイツの件もあるし、また裏切りのようなことがあったら、困るじゃない?てか、狙いは殆ど純ちゃんなんだし」
「私は囮!?てか、このままだと優香里ちゃんが―――」
「えええ・・・、あんまり巻き込まれるの嫌だなぁ」
「そういえば、優香里ちゃんはドイツ来たんだっけ?」
「いえ・・・、私は居残り組でした。けど、台湾は一回行きましたよ〜〜〜」
「そっか!」
キャイキャイと談笑しているが、
(じゃあ、準備しなくて良いのかなぁ)
川上だけは呆れたように皆川を見ていた。