恋海short-story
□ドアをノックするのは誰だ?
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数週間前、俺はひよりと、恋人同士になった。
毎日一緒に飯の支度をして。
毎日一緒の部屋で過ごし。
毎日一緒のベッドで眠る。
何気ない毎日が本当に楽しくて、こんなに幸せでいいのだろうか、とたまに不安になるほど、俺の心は満たされている。
しかし、ここ最近、俺は無性にイライラしていた。
原因は…
「ナギ兄〜!俺不寝番なんだけど夜食なんかないの〜?」
「ナギさ〜ん、チュー太にこのパンの残りあげていいですか?」
「ナギ、実験で火を使いたいんだけど、厨房を借りていいかな?」
「ナギ、風呂が開いたぞ」
どいつもこいつも…
何故ノックもせずに勝手に人の部屋に入ってくる!?
正直、ひよりと付き合い始めるまでは、そんなこと気にしたこともなかった。
俺も誰かの部屋に入るのにノックなんかしたことなかったし、勝手に部屋に入ってこられても平気だった。
船長室への出入りだけは、一応敬意を払って皆ノックは忘れないようだが。
多少神経質なところがあるシンは、勝手にドアを開けるとノックをしろと怒鳴ることはあるが、当の本人が人の部屋に入る時にノックをしないものだから、いつもなぁなぁになっていた。
しかし、この暗黙の了解となっている「ノックなし」生活は、思った以上にストレスが溜まる。
せっかくひよりと恋人になったというのに、部屋に二人でいても全く落ち着かない。
いつ、誰が入ってくるかも分からない部屋で、堂々とイチャつけるわけもなく。
だからといって、愛しい恋人が常に側にいるのに手出しを出来ないと言うのは、俺にとってはある意味拷問なわけで…
事実、俺はまだひよりと深い仲になれていなかった。
「ふぅ〜、いいお湯だったぁ〜」
ひよりが風呂から上がって帰ってきた。
相変わらず色気もないおやじのような発言をして、頭をタオルでワシャワシャと豪快に拭いている。そんなに乱暴に拭いたら綺麗な髪の毛が痛むだろうが!
「貸せ」
俺はひよりからタオルを奪い取ると、ベッドに座っている俺の前の床に座らせてその頭を丁寧に拭いてやった。
「うーん、気持ちいい〜」
頭をマッサージされている気分なのか、ひよりがうっとりとしたような声を出す。
丁寧に拭き終わると、ひよりが俺を見てにっこりと可愛いらしく微笑むから、思わずその唇に軽くキスをした。
不意打ちだったからか、途端に真っ赤になるひより。
そんな姿が可愛い過ぎて、ついつい続きをしたくなってしまう。
ベッドに引っ張りあげて、俺の膝の上に向かい合わせに座らせる。
こうするとちょうど同じくらいの目線になって、ひよりの顔がよく見える。
ひよりは慣れない体制に照れまくって降りようとするが、俺の手がひよりの細い腰を支えているから逃げられず、わたわたと焦っている。
ほんと、可愛い奴。
「今、風呂誰が入ってる?」
髪の毛を手櫛で整えてやりながら、俺は問い掛ける。
「えっ、お風呂?あっ、えっと、トワくんが…」
しどろもどろと、ひよりが答える。
トワか…
あいつは案外長湯だから、時間はあるな。
シンはもう風呂に入ったから俺を呼びにくることもないし、ハヤテは今日は不寝番だし、ドクターは厨房で実験をしているはずだ。
あと数十分は誰にも邪魔をされることはないだろうと俺は読んで、さっきのキスの続きをした。
啄むようなキスを、ゆっくり、三回。
そしてひよりの顔を見ると、もうすでに目がトロンとしている。
まだまだこんなもんじゃねーんだけど…
今度は、深く。
舌を差し込んで、ひよりの舌と絡ませる。
今だ慣れない大人のキスに、ひよりの腰が少し引けて、舌が逃げる。
俺は構わずひよりの舌を追いかけて、口内を犯す。
「っん…」
ひよりの口から吐息が洩れる。
おずおずと、ひよりが自分から舌を絡ませてきた。
ヤバイ。
反応した。
ムクムクと膨れ上がる自分の欲望に勝てず、キスだけで終わらせるつもりが、俺の手はひよりの腰から背中を撫で回し、もう片方の手で胸を触っていた。
「なっ、ナギ…!」
びっくりしたのかひよりは俺の上からどこうともがくが、ひよりの胸の蕾を寝巻越しに指で軽く刺激すると、
「っん!」
っと悩ましい声をあげて抵抗を止めてしまった。
続きをして欲しいってことか?
俺は遠慮なくひよりの胸の先端を指でクリクリ刺激してやった。
「あっ、やん!」
ひよりの身体がピクンと跳ねる。
自分の口から出たエッチな声が信じられないとばかりに、ますます赤くなるひより。
可愛すぎなんだよばか!
もう俺は理性を押さえられず、身体を反転させてひよりをベッドに押し倒した。
もうどうにでもなれ。
もう一度深い口付けをかまそうと唇を寄せた時…
バタン!
「ナギ!酒がなくなった…ん…だけどよ…」
「きゃあぁぁぁ!」
船長がノックもせずに入ってきやがった。
チッ。
計算に入れてなかった。
「おおっ、お取り込み中か。まぁま、俺の事は気にせず、続けろ続けろ」
部屋から出て行こうともせず、船長はジェスチャーを交えながらニヤニヤと行為を促す。
俺はとうとうブチっと切れた。
「続けられるかぁーーー!!!」
鎖鎌を振り回すと、船長はピューっと逃げていきやがった!
鍵だ。
鍵を付けてやる。
次の港に着いた時、まずは鍵を買いに行こう。
そう俺は誓った。