恋海short-story

□満月夜
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満月の宴の夜…

深夜過ぎまで飲めや歌えの宴会で、ひよりが風呂から上がったのは深夜3時を回っていた。

濡れた髪をタオルでゴシゴシ拭きながら部屋に戻ったひよりは、普段は床で寝ているナギが、ベッドの上に倒れ込むように俯せて寝ているのに気付く。

(珍しく船長に絡まれてたから…)

普段のナギは、飲んでも潰れたりしない。宴が始まってもちょこちょことつまみを作りに立ったり、空いた皿を下げたり、飲むことに集中していないせいもある。

しかし今日は普段船長の相手を買ってでてるハヤテが珍しく体調不良で宴を途中で抜けたため、絡む矛先を新入りのひよりに向けたのだった。
飲めないひよりに酒を勧め、隙あらば腰やお尻に手を伸ばしてひよりを自分の傍らから離さない船長を見かねて、ナギが自分から船長の相手役を買ってでたのだ。

その結果、ナギは席を立つことも出来なくなり、船長につがれるがまま酒を煽り、潰れてしまったのだ。

(私のことを庇ってくれたんだよね…)

ひよりは申し訳なく思い、ナギを起こすことが出来ない。あと2時間もすれば、ナギは朝食の準備の為に起きなければいけない。それまでは、ゆっくりとベッドで寝かせてあげたかった。

ひよりはギシッとベッドに腰かけ、ナギの寝顔を見下ろす。
普段はひよりの方が先に寝入ってしまうため、ナギの寝顔をこれほどじっくり見たことはなかったような気がする。

(ナギさんて鼻高ーい、睫毛長ーい)

綺麗な寝顔に、思わず見とれてしまう。
ふと、巻いたままのバンダナに気付く。

(寝る時、いつも外してるんだよね)

ひよりはナギのバンダナの結び目に手をやると、しゅるっと解いてあげた。

(バンダナ姿も格好いいけど、バンダナ外した姿もまたいいんだよね)

バンダナでペタッとなったナギの前髪を、優しく指で梳いてみる。普段やったら怒られそうな行為だ。

「…んっ…」

ひよりの指の感触に触発されたように、ナギが寝返りを打つ。
ひよりは一瞬ビクッとなって手を引っ込めたが、再びスースーと寝息が聞こえると、ほーっと胸を撫で下ろした。

ナギが寝返りを打ったことで、ベッドの真ん中に突っ伏していた先程よりも、若干スペースが空いた。

(と、隣で寝ちゃってもいいかな?)

掛け布団をナギの身体の下から引っこ抜き、ナギに掛けると、そっとベッドに入り込む。狭いシングルベッドで、身体が触れるのを避けるように遠慮がちに端に寄って寝るが、それでもナギの体温が僅かに感じられた。

(暖かい。男の人と一緒に寝るのって、こんなにも暖かいものなんだ…)

ひょんなことで海賊船に紛れ込んでから一月ほど…不慣れな生活と故郷から離れた寂しさを紛らわせるため、今まで必死でこの船に馴染もうと努力してきた。張り詰めていた緊張が少し解れ、初めて安らぎを感じたような気がした。

もう少しナギの体温を感じたくて、ひよりはナギに擦りよる。

(今日だけ…今日だけだから許して下さいナギさん)

伝わってくる体温を感じながら心地良く目を閉じたその時、ナギが再び寝返りを打った。

「!?」

一瞬起きたのかと思って目を開けると、ナギの顔が近すぎて、びっくりして顔を逸らす。ナギはどうやら完全に寝入っているようだった。

「ひゃっ!」

寝ぼけたナギの手が、ひよりの臀部から腰のラインを確かめるかのように撫で上げた。
そして、柔らかい感触を確かめるように、ぎゅうっと抱きしめられる。ひよりの小さな身体は、すっぽりとナギの胸に収まった。

(もしかして私…抱き枕にされてる!?)

ナギはまたもやスースーと気持ちよさげに寝息を立てている。ひよりを抱き込んだまま。

(ド、ドキドキして眠れないよー!!!)





−翌朝−

何も記憶にないナギは、自分の腕の中でニヤけながら寝ているひよりを見て、もう二度と船長の相手をするものかと誓うのだが、それはまた別の話。
 

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