ジョジョ(スタプラ・承太郎etc)

□透明に近いブルー
2ページ/3ページ



しばらくしてある日、昼頃に起きゆうさの姿を探していた承太郎はリビングで昼食を作るホリィを見かけた。
承太郎に気がつくと、ニヤニヤしながら

「ゆうさちゃんは出かけたわよ」

と声をかける。

「近くの喫茶店で待ち合わせがあるって言ってたからそんなに遠くへ行ってないはずよ」

待ち合わせと言う言葉に承太郎は嫌な予感がした。
部屋に戻り半袖のシャツを羽織る。
玄関へと続く廊下を足早に通るとホリィは昼ごはんはどうするのと叫ぶように問う。

「帰ってから食う」

それだけ言うとすぐに靴を履く。
ホリィは怒ることもなく「はぁーい!」と言って見送った。
喫茶店なんて一体いくつあるだろうか。
曖昧な伝言は承太郎を苛立たせた。
何故もっと早く起きなかったのか、そんなくだらないことにイライラする。
家を中心に、知っている喫茶店を数件覗くと人通りの多い大きなガラス張りの喫茶店を見つけた。
通りながらチラッと見ると、ゆうさが中央のソファ席で予想通り海で知り合った男と楽しそうに笑っていた。

その笑顔は承太郎に向ける笑顔よりも楽しそうで、まるで子供のように目を輝かせている。

(あの男はなんだ)

そっと店に入る。
人気なのか店は客で賑わっており、皆それぞれ楽しそうに会話をしたり、一人の時間を楽しむように各々の時間を過ごしている。
承太郎は彼らの様子がガラスに映って見える位置に座った。
適当に飲み物を頼むと、腕を組みガラスに映る2人を観察する。
男はよく見ると承太郎と同じ歳くらいに見えた。
顔はやや美形だが、体格は割としっかりしている。
表情はとても優しそうで親しみが込められている眼差しだった。

(ああいう男がいいのか)

時折彼は何もいない自分の肩に指を指したり、誰もいない空間を見つめている。

(俺には見えない…)

20分もすると、男はスッと立ち上がり手を振って去っていった。
結構早くから会っていたのだろうか。
そんなことを考えていると、ゆうさが立ち上がる。
帰るんだろうな、と思っているとガラスから消え承太郎の方に歩いてきた。

「心配してくれたの?でも気を遣ってくれた?」

入ってくるところをみられた様子はなかったが、ゆうさは承太郎のことに気づいていたらしい。
承太郎の向かいに立つと、一人ぼっちにされた子供をあやすように頭を撫でた。

「ガキじゃねえ…」
「ごめんごめん」

くすくす可笑しそうに笑うと、ゆうさも座った。
少し話をするとゆうさは思い出したように顔色を変える。

「ホリィさんが昼ごはんを作ってくれていたわ。帰らなくちゃね」
「あぁ」

承太郎が立ち上がると、ゆうさも続いて立ち上がる。
彼が取るよりも早く伝票を取りレジに行く。

「おい、俺が」
「心配してくれたお礼!」

明るく言われてしまえば断る方が無下な気がして押し黙る。
払い終わると熱い日差しの中、承太郎に手を差し出した。

「帰ろう」

黙って手を取ると大きな手で離さないようにとしっかり握る。
ゆうさは暑いねーと言いながらもその手を離すことはなかった。

「俺には見えないものってなんだ」
「…守護霊かな」

そんなもの本当にいるんだろうか。
疑ってしまいそうになる。
だがゆうさの表情は本当に淋しそうだった。

「俺にも見えたらな…」
「不安にさせてしまうから、この話はおしまい」
「あいつとはまた会うのか」
「内緒」

会うと言っているようなものだった。
承太郎は返事を返さなかった。



あれから承太郎はゆうさが家にいる時はずっとそばに居た。
と言っても彼女のすることに邪魔はしない。
近くで読書をしたり、ラジオを聞いたりして過ごしていた。

「承太郎は甘いの好き?」
「嫌いじゃあないぜ」

どうやらお菓子を作るらしい。
本を片手にキッチンへ行くゆうさに承太郎も着いて行く。

「俺も手伝う 」
「嬉しいわ、ありがとう!」

クッキーを2人で作った。
結構力がいる場面は承太郎に任される。
よくわからないまま言われたとおり捏ねたり、伸ばしたりすると出来上がったクッキーは様になっていた。

「おいしそう!承太郎いい旦那さんになるわよ!」
「ゆうさの旦那なら構わねえ」
「嬉しいこと言ってくれるわね」

冗談を受け流すようにお決まりのセリフで返す。
承太郎は本気にされていないだけなのか、遠回しに否定されているのかわからずただその笑顔に翻弄されていた。
出来上がったクッキーを皿に並べて、出かけたホリィの分と分けてテーブルに置く。

「紅茶、飲める?」
「大丈夫だ」

ティーパックをカップに入れてお湯を注ぐ。
いい香りがしたところで、ゆうさはクッキーに手を伸ばした。
形としてはただ丸いクッキーをつまむと一口かじる。
幸せそうな表情で満たされるゆうさの顔をみて承太郎も幸せに満たされるのであった。












「花火大会がある、行かねえか?」

夏も後半に差し掛かった頃、ホリィからの情報で今夜花火大会が近所の河川敷で行われることを知った。
部屋で何やら手紙を書いているゆうさは承太郎の提案に頷いた。

「行くわ!きっと綺麗でしょうね」
「出店もあるぜ」
「承太郎の興味はそっちかしら」

クスクス笑ながら、手紙をかき終わるまでもうちょっと待ってねと言って続きをかき始める。
承太郎は中身を見ようとはしなかった。
見えないよう彼女の後ろで背を向けるようにして本のページをめくっていた。






家の外へ出たのは一時間後だった。
手紙を書き終えたのは数分だったが、ホリィに花火大会にいくことを伝えたら、

「花火大会といえば浴衣よ!」

と何処から引っ張り出して来たのかゆうさと承太郎の浴衣を取り出し、強引に着付け始めた。
先に承太郎の着付けを済ませ、ゆうさの着付けを始める。
とても楽しそうで断るに断れない彼女に、楽しんで来てねとウィンクを返された。
着付け教室で磨いたこの腕をと張り切るホリィは手際良くゆうさを着飾った。

「素敵!ゆうさちゃんは美人ねぇ」
「ホリィさんのおかげです!」

髪をまとめ、落ち着いた色の浴衣で包まれたゆうさは誰もが振り向きそうな清楚な浴衣美人だった。

「綺麗だな」

先に済ませた承太郎がホリィに呼ばれて入ってきた。

「承太郎も普段と違って着痩せして見えるわね」

でも似合ってると微笑む彼女の手を取る。

「行こうか」

ホリィに見られることすら気にならなくなったのか、手をつなぎ花火会場へと向かっていった。

会場はいろんな人で溢れていた。
屋台も列になって並び、会場への道を作っている。
花火が上がるまで時間がしばらくあると、その辺をぶらぶらしていた。

「何か食べたいものあったらいえよ」
「私は大丈夫よ」

何も欲しがらない彼女に、適当に出店に入って食べそうなものをチョイスする。
ベビーカステラ、りんご飴、ジュース。
夜は出店でと考えていたので自分の腹ごしらえを調達すると目的地へ到着する。

「ここは人がいないわ」
「ここでいんだよ」

花火会場とは少し離れた工場跡地だ。
幽霊でも出そうな廃屋は誰も来はしなかった。
鉄板でできた階段をゆうさを支えながら進む。
5階建ての建物の屋上は鍵もかかっていなかった。

「ほらここに座りな」

胸元から出した大きめのハンカチをそこに敷くとゆうさを座らせた。
何もかも計画済みだったのだろう。
ゆうさは言うとおりそこに座ると続いて承太郎が隣に座った。

「なんか食うか」
「ベビーカステラにしとく」

渡された袋を膝の上に置いて一口つまむ。
やっぱり幸せそうな顔がそこにあって承太郎は幸せだった。
しばらくも立たないうちに花火が一発開始の合図なのか打ち上がった。
それからいくつもの花火が連続でいろんな色に輝いては競い合うようにきらめく。

「綺麗…」

花火に見入るように呟いた一言に承太郎も見上げ頷く。







それは特別な2人だけの空間だった。

空色の瞳が花火の光で輝く。

その瞳に視線が奪われる。






「好きだ」






花火が打ち上がる瞬間、承太郎は告白した。
音が彼の声を攫い、ゆうさは視線を花火に映したままだ。
承太郎はその姿を優しい眼差しで見つめていた。
視線に気づいたのかゆうさは首を傾げる。

「どうしたの?」
「綺麗だなって思っただけだ」
「ええ、とっても綺麗ね」

ゆうさは彼の体にそっと寄り添い、空を見つめる。
その眼差しはとても優しかった。




















夏休みが終わり、ゆうさはアメリカへと帰っていった。
学校も始まり承太郎はまたいつもの日常の中を歩いていく。
そこに彼女はいない。

メモの男に会うこともなかった。

まるで今までのことは幻の中の出来事で、

彼は空を眺めては眩しそうに帽子深く被った。











次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ