うさぎちゃん

□薔薇と執事とチェッカーと
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「ちゃみ。」





艶のある声で名前を呼ばれたかと思うと、薔薇の花弁が目の前を舞う。



なめらかな感触を指先で感じ取る。
その花弁を手のひらから落とすと、真紅のそれは宙をさ迷い、チェッカーの大理石へ落ちた。





「ちゃみの唇は、
なぜそんなに色が薄いの?」





花弁の一枚とれた薔薇を手にお嬢様は笑う。



お嬢様からの命令は四つん這いの恰好のまま、散って逝く薔薇を見ていること。




「お嬢様のように毎日赤い薔薇にキスをしないからですよ、」



四つん這いの僕の前で薔薇を散らすお嬢様は僕の目の前にしゃがみ込むと、美しい顔を歪ませる。




「ちゃみの瞳はどうしてそんなに生意気なの?」



「貴方を負かすためです。」





形の良い眉を黒髪の下で寄せたお嬢様は残りの残りの薔薇をぐしゃりと片手で潰した。


跡形もなく無惨な姿になった赤い薔薇が大理石に散る。




黒と白とのチェッカーに赤い薔薇。





「貴方のようですね」





暗黒の黒髪に白い肌、赤い唇。







クスクスとお嬢様は笑って僕の背後へまわる。





「恥ずかしい姿。
止めたいとは思わない?」


「止めたいです。」


「どうして?」


「恥ずかしいからですよ。」





彼は笑う。

僕も笑う。








ぐっと細い脚を無理矢理引き寄せる。
バランスを崩したお嬢様は僕の上へ倒れた。




「なにするの!」


「薔薇はもう散ったでしょう?」


「だからなに。」


「褒美をもらわないと、……」



ゆっくり自分の上から彼を床へ下ろす。
その上に覆い被さって、襟の赤いリボンをほどくとその細い手首を縛り付ける。





「痛い………!」





「それで痛いならお嬢様に殺されたこの薔薇はどうなるのです?」





粉々になった赤い残骸を手のひらに集め、彼の顔へ振りかける。



彼は動きもしない。

ただその瞳に僕をうつし、反抗的な色を作り上げていた。





「あんまり調子に乗ると貴方泣きますよ?」





「ごめんなさ……い…」







ねえ、ゆちょん。


薔薇色でないこの唇も

貴方を負かすためにあるこの瞳も

この身体も
すべて貴方の為にある。



それでも、
あんまりうるさい赤薔薇は、

握り潰すのもいいかも知れませんね。


end
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