*混沌の実*
□瑠璃色の賛美歌
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聴こえる。
大好きだった、あの歌が。
□■瑠璃色の賛美歌□■
この世界に来て、琉夏はずっと探していた。
靴が泥に塗れるのも、汗で髪が張り付くのも構わずに、ただひたすらに走り回っていた。
探しているのは、ただ一人。
「コウ…!」
耳元で揺れるピアスが、耳障りなリズムを刻む。
気に入っていたはずのそれが揺れて耳たぶが引っ張られるのが不快だった。
それでもそれを外さないのは、お揃いのそれが自分達を引き会わせてくれるのではないかなどという、下らない妄想という名の期待のせいだ。
「…コウも、探してくれてるはず…だとしたら…」
茂みに身を潜め、くしゃくしゃになった地図を広げる。
もし、琥一が琉夏の知っている琥一のままでいるならば、どこに向かっているか判るかもしれない。
開始場所の学校は、もう禁止エリアになっている頃だ。
琉夏はそこからまっすぐ西に向かってきていた。
西の端は、切り立った崖になっていて、これ以上は進めない。
琥一ならどちらに向かうだろうか。
「…コウなら…俺を探してくれてるとすれば…」
元々が小さな島だ。
目印となるようなものもそれほどない。
地図にも、ほとんど森が描かれているだけだ。
「…神社…」
幼い頃、よく教会で遊んだ。
信心深かったというわけでも、神様を信じていたというわけでもない。
ただ、自分達にとってちょうどいい遊び場だったというだけだ。
しかし、それを琥一が覚えていたとしたら、それを手掛かりに、琉夏を探しているかもしれない。
この島に、教会など存在しない。
同じように神様の奉られる神社を目印とするのも、考えられなくはない。
「コウ…!」
地図を丸めて鞄に押し込み、踵を返して神社に向かう。
早く。
一分でも、一秒でも早く、琥一に会いたかった。
琥一に会って、名前を呼んで、抱き締めて欲しかった。
一人で死ぬのは、絶対に嫌だった。