*混沌の実*
□盲目の独占欲
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世界で一番好き。
誰にも渡さない。
―――俺のものだから。
□■盲目の独占欲□■
連れて来られたのは小さな島。
周りは海。
ここからはもう、絶対に逃げられない。
琥一はそんな事実を噛み締めながら、その島を走り回っていた。
渡された鞄には武器が入っている。
琥一の鞄に入っていたのは、大振りな斧。
ずっしりと重いそれを掴み、草を掻き分け、ただひたすらに走る。
探しているのは、ただ一人。
早く、
早く見つけてやらないと。
走る度に、左耳のピアスが揺れる。
小さな音を立てるそれが、琥一の道標だ。
同じピアスを付けた、
柔らかい金の髪をした、
あの弟を探している。
「…ルカ!」
「…コウ?…え、嘘…本物?」
森の中、立ち尽くしていた琉夏は、琥一を見てただ目を丸くしている。
確かめるように琉夏に触れれば、その頬は確かに温かく、柔らかかった。
「怪我はねぇな…大丈夫だったか?」
「…コウ…良かった、来てくれて」
抱き着いてくる琉夏の身体は、確かに温かい。
生きている。
そんな当たり前の事実が、涙が出そうなほどに嬉しかった。
「コウ、それ…」
「ん?…ああ、鞄に入ってた。これなら使えそうだろ?」
琉夏の視線の先にあるのは、あの斧。
それは月の光を浴び、鈍い輝きを放っている。
「うん、超強そう。持ってみていい?」
返事をするより先に、琉夏の手は琥一から身体を離し、その斧を手にしていた。
月明かりのせいか、琉夏の手は妙に白く見える。
「よ、いしょ…っと。重いね、これ」
「ああ、そうだな」
両手で柄を掴み、それを持ち上げる琉夏は、まるで新しい玩具を持って笑っている子供のようだった。
斧が、月明かりに反射する。
「……ルカ?」
「…ごめんね、コウ」
金の髪に半分埋もれたピアスが揺れる。
降り注ぐ月の光を浴びても、それは輝くことはない。
琉夏の身体は、
頭から、
真っ赤に染まっていた。
「…ごめんね」
しゃがみ込んで、原型を留めない頭に触れる。
「コウは、何考えてた?触っても、判んないよ」
指で掬った頭の中身は、何も答えてはくれない。
「…大好きだよ、コウ。世界で一番。
だから、誰にも渡さない…いいだろ?」
返事はない。
ふと視線をやると、同じピアスに貫かれた左耳は、まだ綺麗なまま残っていた。
「…このままじゃ、持ってけないもんな」
小さく呟くと、琉夏は頭を砕いた斧で、慎重に耳を切り落とす。
こんな状態になっても、それは何よりも愛おしいもので、琉夏の胸が一気に熱くなる。
「俺のものだよ、コウ。
このピアスを付けたあの時から、ずっと、
コウは俺だけのものだったんだ」
世界で一番好き。
誰にも渡さない。
例え、お前がお前でなくなったとしても。
□■終□■
→あとがき