*混沌の実*

□盲目の独占欲
1ページ/2ページ

世界で一番好き。


誰にも渡さない。



―――俺のものだから。







□■盲目の独占欲□■








連れて来られたのは小さな島。
周りは海。
ここからはもう、絶対に逃げられない。


琥一はそんな事実を噛み締めながら、その島を走り回っていた。


渡された鞄には武器が入っている。
琥一の鞄に入っていたのは、大振りな斧。
ずっしりと重いそれを掴み、草を掻き分け、ただひたすらに走る。


探しているのは、ただ一人。


早く、

早く見つけてやらないと。


走る度に、左耳のピアスが揺れる。

小さな音を立てるそれが、琥一の道標だ。


同じピアスを付けた、
柔らかい金の髪をした、
あの弟を探している。




「…ルカ!」




「…コウ?…え、嘘…本物?」


森の中、立ち尽くしていた琉夏は、琥一を見てただ目を丸くしている。
確かめるように琉夏に触れれば、その頬は確かに温かく、柔らかかった。


「怪我はねぇな…大丈夫だったか?」


「…コウ…良かった、来てくれて」


抱き着いてくる琉夏の身体は、確かに温かい。


生きている。


そんな当たり前の事実が、涙が出そうなほどに嬉しかった。



「コウ、それ…」


「ん?…ああ、鞄に入ってた。これなら使えそうだろ?」


琉夏の視線の先にあるのは、あの斧。
それは月の光を浴び、鈍い輝きを放っている。


「うん、超強そう。持ってみていい?」


返事をするより先に、琉夏の手は琥一から身体を離し、その斧を手にしていた。


月明かりのせいか、琉夏の手は妙に白く見える。


「よ、いしょ…っと。重いね、これ」


「ああ、そうだな」


両手で柄を掴み、それを持ち上げる琉夏は、まるで新しい玩具を持って笑っている子供のようだった。







斧が、月明かりに反射する。







「……ルカ?」







「…ごめんね、コウ」












金の髪に半分埋もれたピアスが揺れる。


降り注ぐ月の光を浴びても、それは輝くことはない。






琉夏の身体は、


頭から、


真っ赤に染まっていた。




「…ごめんね」




しゃがみ込んで、原型を留めない頭に触れる。




「コウは、何考えてた?触っても、判んないよ」




指で掬った頭の中身は、何も答えてはくれない。




「…大好きだよ、コウ。世界で一番。



だから、誰にも渡さない…いいだろ?」




返事はない。


ふと視線をやると、同じピアスに貫かれた左耳は、まだ綺麗なまま残っていた。




「…このままじゃ、持ってけないもんな」




小さく呟くと、琉夏は頭を砕いた斧で、慎重に耳を切り落とす。



こんな状態になっても、それは何よりも愛おしいもので、琉夏の胸が一気に熱くなる。






「俺のものだよ、コウ。



このピアスを付けたあの時から、ずっと、





コウは俺だけのものだったんだ」












世界で一番好き。

誰にも渡さない。


例え、お前がお前でなくなったとしても。









□■終□■


→あとがき
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ