エリアラ-1
□【おやすみを言おう】
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違和感を感じ目を開けて見ると、アランは瞳と一緒にしっかりと歯もくいしばっていた。
(ア、アラン…)
試しに、軽く舌先でアランの唇を刺激してみるが、それにも気付く様子はない。
エリックは諦めた。初めてのキスで、「舌を入れさせてくれ」とは流石に言いにくい。
* * *
そして現在に至る。
と、次の日のアランとの帰り道も、エリックはそんな事を考えていた。
アランが、ちょうどグレルについて話していたから、その真っ赤なドレスに目が行ったのかもしれない。
「あ」
考え事をしていて気付くのが遅過ぎた上に、声を出してアランの注目を引いてしまった。
「え?」
何でもない道を変えよう、とエリックが言う前にアランはすぐにそれを見つけて、固まってしまった。
ほぼ目の前と言っていい距離で、若い男女が激しく口付けを交わしていた。荒い息遣いや唾液のねぶる音まで聞こえてくる、生々しい物だった。
実際にはほんの数秒だったが、2人が声を失っていると、女の方が薄目を開けて妖艶に笑んだ。
ふっと我に返り、アランは慌てて目をそらす。やや後ろで立ち止まっていたエリックには、アランのワイシャツから覗くうなじが、朱を帯びているのが分かった。
「行こう」
エリックはアランの手を握ると、強引に引っ張って歩きだした。
後ろで身を離した男女が、おやすみ、と言い合って別れるのが聞こえた。