エリアラ-2
□【トラブル<ハピネス】
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「死亡予定者リストと、魂の収支が合わない?」
その事実を発見し、それをウィリアムに報告したのは、ロナルドだった。
前日は、大回収だった。大きく蛇行した運河の流れる町で豪雨が降り、もう何度目か分からぬほどの洪水で、数百人の魂がファイルに収められた。多過ぎて一晩では報告書が書き上がらず、翌日に持ち越してのファイリング作業の半ばでの出来事だった。
ウィリアムは常よりもより眉を険しくし、回収にあたったグレル、エリック、アラン、ロナルドを呼び、横一列に整列させた。
「昨日の回収に行ったのは、貴方がた4人でしたね」
「そうヨ、ウィル。人手不足で大変なんだから。ちょっとは労って頂戴」
グレルがシナを作ったが、華麗に無視してウィリアムは話を進める。
「ロナルド・ノックスによると、死亡予定者リストに名前のある人間の魂がひとつ、欠けているようです」
「はい。アラン先輩の担当の魂っス」
「と、言う事ですが、心当たりはありませんか、アラン・ハンフリーズ」
「えっ…」
突然指名されたアランは、やや驚いて目を見張った。アランが人間の魂を狩る事への罪悪感めいたものを持っているのは、周知の事実だ。ウィリアムが、ぴしりと眼鏡を押し上げた後、言い放った。
「まさか、仏心でも出して、見逃した…訳ではないでしょうね」
謂れのない疑いを持たれ、数瞬言葉もないアランの代わりに、エリックが割って入った。
「待ってください、ウィリアムさん。昨日の回収じゃ、何百と魂を狩ったんだ。ひとつ見逃したって、意味がねぇんじゃないですか?」
その言葉に納得したように、ふうっとひとつ、ウィリアムはため息をついた。
「確かに。疑うのはやめましょう。…何か、心当たりはありませんか、エリック・スリングビー」
「そう言えば…アタシ、エリックとアランの近くにいたけど」
紅いルージュの唇を尖らせ追憶しながら、グレルが呟いた。
「アンタ、一度発作起こさなかった?」
「…あっ」
嵐のような忙しさの回収の只中にあって失念していたが、アランも思い出した。それは、ほんの僅かなツキンとした痛みだったが。
「そうなんスか?」
ロナルドの疑問に、エリックが答えた。
「そうだ。確か、大回収の終わり頃、一瞬、倒れかけた」
「はい。そうです。心当たりがあるとしたら、それしか考えられません、ウィリアムさん」
「それは厄介ですね…」
ウィリアムはもう1度、神経質に眼鏡を上げた。ポーカーフェイスの彼が、心動いた時の癖だった。
「まだ回収場所に”いる”と良いのですが…。理由が何にせよ、貴方が担当の魂です、アラン・ハンフリーズ。エリック・スリングビーと2人で至急、その魂を回収してください」