その他CP-1
□【スターフェスティバル】
1ページ/3ページ
ウィリアム・T・スピアーズは出張だった。空港で、やや苛々と、振り切る様に大股に早足で歩く自分に、小走りで追いすがってくるロナルド・ノックスに冷たい視線を投げる。
「なぜ貴方は着いてきたんですか。回収ではないのですから、必要はないんです」
「ま、ま、パートナーっスから。ほら、黒髪のコも可愛いですし」
言って、ウィリアムをチラリと見る。彼も黒髪だ。だがその言葉に込められた意味には、ウィリアムはついぞ気付かぬようだった。
* * *
「では、シロウ・リクドウ。内部監査は終わりました。結果はこちらの文書に記載してあります」
几帳面に内容ごとに分類され、ホチキスでとめられた書類束を六道司朗に手渡す。文書の作成・分類はウィリアムがやり、ホチキスどめだけがロナルドの手によるものだった。
「お疲れさまでした」
司朗は、日本人特有の言い回しと仕草で、深々とお辞儀をした。
「では、私たちはこれで失礼します」
「あっ、ちょっと待って下さい」
「何ですか?」
ウィリアムは仕事にやり残しでもあったかと、真摯に向き直る。
「その、せっかくいま時期に来たんですから、七夕祭りでも見ていきませんか?今日はお泊りですよね?」
「タナバタ?何スかそれ」
文字通り横から首を突っ込み、ロナルドが話に食いつく。
「あ。ええと…『スターフェスティバル』…ですかね。毎年七月七日に、願い事を紙に書いて竹に吊るすんです」
「ふーん…ジャパニーズ・クリスマスって感じですか。面白そうっスね、スピアーズ先輩」
「では、ロナルド・ノックス。貴方だけお招きにあずかりなさい」
仕事以外に興味のないウィリアムはぴしゃりと言った。だが司朗は逡巡した後、食い下がる。
「実は…お持て成ししようと思って、浴衣…簡単な着物を用意してあるんですが、袖だけでも通してみませんか?」
「オー!ジャパニーズ・キモノ!」
途端、ロナルドが目を輝かす。
「黒髪だし、絶対似合いますよ先輩!着させて貰いましょう!ねっ」
ウィリアムの背中に手を添え、ロナルドは彼を前に押し出すようにぐいと力を加える。
「行燈…アート・キャンドルも綺麗ですよ」
日本人は実に頻繁にビジネス・スマイルを振りまくが、それとは違う心からの笑顔に、ウィリアムは怯んだ。
「ですよね!」
「…では、少しだけ…」
司朗にほだされ、気付かれないよう小さく溜め息をつきながら、ウィリアムは諦めたように眼鏡を押し上げた。