小話纏め-4
□【●●じゃらし】
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「そ〜れ、おはぎ!」
去年のクリスマスの少し前に、エリックが運んできてくれたプレゼント、黒猫のおはぎと猫じゃらしで遊ぶのが、俺の最近のマイブームだった。元々派遣協会の裏手に住み着いていた野良だったおはぎは、チラチラと揺れる羽飾りが気に入ったようで、何度やっても飛びついてくる。
「あはは、良いぞ、おはぎ!」
俺は猫じゃらしを持ったまま、玄関まで走って行った。うにゃにゃと楽しげに唸って、おはぎも急いで追いかけてくる。だけど…。
「ぶはっ!」
途中で柔らかい壁にぶつかって、俺は廊下に転がった。おはぎは猫じゃらしの先を銜えて、勝利の鳴き声を上げながら、リビングにダッシュで戻っていく。まだ野生の残っているおはぎは、一度獲物を捕らえたら、なかなか返してくれない。楽しいひと時は、不意に終わってしまったのだった。
「アラン、大丈…」
「もう!エリック、邪魔!!」
差し出される掌を思わず払い、俺は尻餅をついたまま大声で苦情を入れる。ぶつかったのは、廊下をリビングに向かって来ていたエリックだった。
「…そんなにおはぎが好きか」
ぽつりとエリックが呟いて、ようやく俺は自分の失言に思い当たる。そうだ。おはぎを連れてきてくれたのは、エリックだった。
「あ…ごめん。エリックも好きだよ?」
「…『も』?」
「いや、あの、えっと…エリック、が、好き」
まだ夕食前から口にするには恥かしい言葉で、俺は頬を染めて少しぶっきらぼうに告白した。エリックの黄緑の瞳がキラリと燐光を反射したような気がしたけど、すぐにいつもの穏やかな色に戻って、俺の手を取り立ち上がらせてくれると、リビングに入って行った。
* * *
「ん…」
俺は、夢を見ていた。鴨の雛の母鳥になった夢だった。素裸の下肢に雛たちがわらわらと群がってきて、ふわふわと俺のあそこを刺激する。
あ…駄目…っ。俺、君たちのお母さんじゃないよ。そんなトコ…や…気持ち良くなっちゃうっ…。
「ぁっ…うぅん…ん?!」
目が覚めて初めて、それが夢だと思い知る。俺の両手首はエリックのネクタイで一纏めに縛り上げられ頭の上で固定され、自由が利かなくなっていた。パジャマの下は脱がされ、ボクサーパンツ一枚のエリックは、片膝を立ててふくらはぎの辺りで蟠っている。
「エリック…?!ん、あっ…!」
夢と現実が符合した。エリックは、その手に鴨の羽の猫じゃらしを持ち、俺のあそこを焦らすようにさわさわとそよがせているのだった。
「や、ぁん、エリック…!」
その刺激よりも、爛々と光る視線に身体が反応して、痛いほどに俺は勃ち上がった。でもエリックは、その掠めるような動きを止めはしない。もう、奥までヒクついて、エリックを待ってるっていうのに。普段穏やかだけど、こんな時のエリックは、満足のいく言葉を言うまでイカせてくれないんだ。
「エリック、ごめっ…ごめん、もう、おはぎと遊ばないから…っ」
「それじゃ、おはぎが可愛そうだろ?」
「んんっ…遊ぶけど、エリックの事、邪魔にしたり、しないから…ぁっ…早く…」
「俺の事どう思ってる?」
「あ、あんっ…あい、し、てる…っ」
「どれくらい?」
「おはぎの百万倍!エリック…!」
イキたくて透明な涙を流している瞳とあそこが堪らなくて、俺は思わず腰を小刻みに揺らしていた。ゆらゆらとあそこも揺れて、腹筋に当たってもどかしい感触が更に募る。
「…っく…エリッ…」
しゃくり上げると、エリックが俺の両脚の膝裏を持って、腰を割り込ませてきた。後孔に硬い感触が当たって、じりじりと太い楔が打ち込まれる。
「あぁんっ、もっとっ…ちょうだい…っ!」
勝手に言葉が口から出てしまう。恥かしさよりも、快感を追う事に夢中になっていた。やがてエリックが全て俺の中に飲み込まれ、激しい注挿に、幸せで目の前が真っ白になった。
* * *
──にゃあ。間延びした鳴き声と、頬に当たる肉球の柔らかい感触で目が覚めた。
「ん…おはぎ?」
おはぎは野良だったから、よほどお腹が空かない限り、こんな風に朝起こしてくれる事なんてなかった。まだ覚めやらぬ瞳を擦って上身を起こすと、おはぎが膝に乗ってきて、俺は下着を着けていない事に気付く。そして。
──にゃあ。おはぎが銜えていたものを、ポトリと俺の手の甲に落とした。
「あ…」
それは、昨夜の猫じゃらしだった。いつもはおもちゃ箱にしまっていたが、ベッドの上にあるのを見付けて、遊びたくなったのだろう。だけどそれには俺の愛液がこびり付き、白くパサパサになっていた。
「おはぎ、ごめん…!新しいの買ってあげるから!」
期待に後ろを着いてくるおはぎを振り切って、俺は猫じゃらしをダストボックスに放り込もうとした。
…いや、待てよ。俺はベッドの上にあるエリックのネクタイと、猫じゃらしを持って、まだ眠っているエリックの隣に座り込む。さあ、楽しい報復の始まりだ。ふふ…。
End.