小話纏め-4
□【ストロベリー】
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今日は俺が休日で、エリックは出勤だった。そんな日はたいてい、エリックはお土産を買ってくる。マカロンだったり、ショコラだったり、プディングだったり…。俺が喜びそうな、ちょっと手のこんだ甘いものが多かった。
「ただいま。土産買ってきたぞ〜〜」
派遣協会にいる時とは違う、何処か間延びしてリラックスした声音を出して、エリックが帰ってくる。
「おかえりなさい、エリック」
俺はいつも通り玄関まで出迎えて、コートと荷物を受け取った。今日のお土産は…。
「あれ?ケーキ?」
箱の形からの予想は、的中した。
「ああ。そう言や、一番オーソドックスなやつを忘れてたと思ってな」
「そうだな。そう言えば、エリックとケーキ食べた事なかった。紅茶いれるな」
「サンキュ」
ケーキの箱はテーブルに残し、エリックのコートと鞄をクローゼットにしまって、俺はキッチンに向かう。お湯をわかし、アプリコットティーの茶葉をポットに入れた。
エリックも部屋着に着替えてからキッチンにやってきて、ケーキ皿を二枚取り…ちょっと間があって、俺に疑問符を投げ掛けてきた。
「…なあ、ケーキってフォークで食うか?」
「え?うん。他に何で食べるんだ?」
引き出しのカトラリーケースから、シルバーのフォークとスプーンを取り出しながら、エリックは笑った。
「俺んちはガキの頃から、スプーンで食ってたんだ。だから初めてカフェでケーキ食った時、スプーンくれって言ったら、陰でクスクス笑われた」
二つのティーカップに注いだアプリコットの甘い香りに包まれながら、俺はエリックと共に笑みかわしつつリビングに戻っていった。
「あ、分かる。俺のうちは母親が過度に上品だったから、何にでも頭に『お』をつけたんだ。初めて一人でお使いに出された時、店員さんに何が欲しいか聞かれて、おタルタルソースください!って一生懸命言ったら、やっぱり笑われた」
お茶のセッティングを終えて箱を開けると、俺の大好きなショートケーキと、ガトーショコラが顔を覗かせた。
「アランの好きな方、選んで良いぞ」
「俺、子供の頃から、ショートケーキが一番好きなんだ!」
思わずハイテンションに声を弾ませると、エリックにくつくつと笑われた。
「そうか。なら今度から、ショートケーキの日、作ろうな」
「うん!頂きます」
皿に移したショートケーキを俺はフォークで、エリックはガトーショコラをスプーンで口に運ぶ。しばし、至福の静けさがリビングに漂った。俺は子供の頃からの癖で、あまり行儀は良くなかったけど、苺を残すようにして食べる。すると、エリックが不意に俺の後ろを指差した。
「アラン、あれ」
「え?」
俺はケーキから目を離して、背後を振り返る。けれどそこには、特別に目を引くものは何もない。頭にクエスチョンマークを瞬かせながら、俺はエリックに向き直った。
「何?」
でもエリックは何も言わず、黙って俺の目を見てニヤリとほくそ笑んだ。あ!これ、エリックが何か悪戯する時の顔だ!
「…あ!」
気付いた時にはもう遅かった。大事に最後に取っておいた俺のショートケーキの苺は、影も形もなくなっていた。
「エリック!」
思わず大人げなく声を荒らげてしまうと、エリックがベーッと舌を出した。その上に、俺の苺は乗っていた。
「食べさせてやるよ」
器用に苺を崩さぬまま喋って、ぐいとうなじに手がかけられた。
「んっ…!」
エリックの舌によって俺の口内に苺が押し込まれ、フルーティーな香りが鼻腔に広がった。
「ん!んん!」
抗議は俺の大好きな、生クリームと苺のハーモニーで封じられてしまう。文字通りの甘い時間は、苺がなくなってしまっても、俺の腰が砕けるまで長く長く続いたのだった。エリックの…馬鹿っ!///
End.