小話纏め-4

□【ストロベリー】
1ページ/1ページ

今日は俺が休日で、エリックは出勤だった。そんな日はたいてい、エリックはお土産を買ってくる。マカロンだったり、ショコラだったり、プディングだったり…。俺が喜びそうな、ちょっと手のこんだ甘いものが多かった。

「ただいま。土産買ってきたぞ〜〜」

派遣協会にいる時とは違う、何処か間延びしてリラックスした声音を出して、エリックが帰ってくる。

「おかえりなさい、エリック」

俺はいつも通り玄関まで出迎えて、コートと荷物を受け取った。今日のお土産は…。

「あれ?ケーキ?」

箱の形からの予想は、的中した。

「ああ。そう言や、一番オーソドックスなやつを忘れてたと思ってな」

「そうだな。そう言えば、エリックとケーキ食べた事なかった。紅茶いれるな」

「サンキュ」

ケーキの箱はテーブルに残し、エリックのコートと鞄をクローゼットにしまって、俺はキッチンに向かう。お湯をわかし、アプリコットティーの茶葉をポットに入れた。

エリックも部屋着に着替えてからキッチンにやってきて、ケーキ皿を二枚取り…ちょっと間があって、俺に疑問符を投げ掛けてきた。

「…なあ、ケーキってフォークで食うか?」

「え?うん。他に何で食べるんだ?」

引き出しのカトラリーケースから、シルバーのフォークとスプーンを取り出しながら、エリックは笑った。

「俺んちはガキの頃から、スプーンで食ってたんだ。だから初めてカフェでケーキ食った時、スプーンくれって言ったら、陰でクスクス笑われた」

二つのティーカップに注いだアプリコットの甘い香りに包まれながら、俺はエリックと共に笑みかわしつつリビングに戻っていった。

「あ、分かる。俺のうちは母親が過度に上品だったから、何にでも頭に『お』をつけたんだ。初めて一人でお使いに出された時、店員さんに何が欲しいか聞かれて、おタルタルソースください!って一生懸命言ったら、やっぱり笑われた」

お茶のセッティングを終えて箱を開けると、俺の大好きなショートケーキと、ガトーショコラが顔を覗かせた。

「アランの好きな方、選んで良いぞ」

「俺、子供の頃から、ショートケーキが一番好きなんだ!」

思わずハイテンションに声を弾ませると、エリックにくつくつと笑われた。

「そうか。なら今度から、ショートケーキの日、作ろうな」

「うん!頂きます」

皿に移したショートケーキを俺はフォークで、エリックはガトーショコラをスプーンで口に運ぶ。しばし、至福の静けさがリビングに漂った。俺は子供の頃からの癖で、あまり行儀は良くなかったけど、苺を残すようにして食べる。すると、エリックが不意に俺の後ろを指差した。

「アラン、あれ」

「え?」

俺はケーキから目を離して、背後を振り返る。けれどそこには、特別に目を引くものは何もない。頭にクエスチョンマークを瞬かせながら、俺はエリックに向き直った。

「何?」

でもエリックは何も言わず、黙って俺の目を見てニヤリとほくそ笑んだ。あ!これ、エリックが何か悪戯する時の顔だ!

「…あ!」

気付いた時にはもう遅かった。大事に最後に取っておいた俺のショートケーキの苺は、影も形もなくなっていた。

「エリック!」

思わず大人げなく声を荒らげてしまうと、エリックがベーッと舌を出した。その上に、俺の苺は乗っていた。

「食べさせてやるよ」

器用に苺を崩さぬまま喋って、ぐいとうなじに手がかけられた。

「んっ…!」

エリックの舌によって俺の口内に苺が押し込まれ、フルーティーな香りが鼻腔に広がった。

「ん!んん!」

抗議は俺の大好きな、生クリームと苺のハーモニーで封じられてしまう。文字通りの甘い時間は、苺がなくなってしまっても、俺の腰が砕けるまで長く長く続いたのだった。エリックの…馬鹿っ!///

End.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ