トモコレ-2

□【トモコレ日記:50】
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黒いワンボックスカー二台は、武道館の関係者口に入って止まった。ライヴを観には何度も来た事があるが、関係者として裏から入るのは初めてだ。楽屋への道々、ロナルドが、興奮気味に辺りを見回した。

「凄いっスね…!俺たちホントに、武道館に来たんスね」

「まだ来ただけだ。デビュー出来るのは、一組だぞ」

俺が慎重にいなすと、ウィリアムさんも言った。

「そうですよ。ぬか喜びは御免です」

そのポーカーフェイスからは何の感情も読み取れなかったが、ウィリアムさんもデビュー出来たら喜ぶらしい。そう思うと、何となく可笑しくなって、密かに喉を鳴らした。アランが敏感に感じ取って、見上げてくる。

「エリック、何笑ってるんだ?」

「いや…何でもねぇ」

「何ヨ、やらしいワネ、教えなさいヨ」

「何でもねぇよ」

俺は誤魔化して、楽屋を見渡した。運ばれたという楽器は、ここにはない。どちらが弾いても良いように、ステージにセットされているんだろうか?気になって、俺は立ち上がった。

「ステージ観に行くけど、一緒に行く奴」

アランとロナルドが返事して、俺たちはステージ袖の暗闇に入っていった。先ほど記者会見が行われたばかりなのに、ネットで先に情報でも流れていたのだろう、客席はすでに殆どが埋まっていた。

「やっぱアンダーテイカーのネームバリュー、ハンパないっスね」

「どうしよう、また緊張してきた…」

「落ち着けアラン。取り合えず、トイレ行っとくか?」

「お手洗いでしたら、あちらに」

突然、異質な声が割って入った。ギクリとして横を見ると、気配も見せずにセバスチャンが立っていた。暗がりの中に紅い目が二つ、ぽつぽつと光っている。一体、いつから居たのだろうか。薄気味悪い奴だ。

「おや、驚かせてしまったでしょうか。失礼しました」

紅い光点が消え、セバスチャンは一礼をした。

「余裕だな。ライバルだってのに」

「ええ、人生は長い。これは、そのほんのひと時の戯れに過ぎません」

「戯れだと?!」

俺が怒るより早く、ロナルドが怒声を上げた。このチャンスを遊び扱いされたのでは無理もない。しかしロナルドに出鼻を挫かれたせいで、リーダーという立場上、止めに入らざるを得なくなった。

「あんた、音楽を馬鹿にするのにも程が…」

「待て待て待て」

「エリック先輩!こいつ気に食わないんスよ!」

セバスチャンに詰め寄ろうとするロナルドを制し、俺は奴に言った。

「お前の言葉、所詮負けても悔しくねぇ、って負け惜しみに聞こえるぜ。セバスチャン」

「クス…失礼。そう取って頂いて結構です。それでは」

そう残して、セバスチャンは去っていった。ロナルドが歯噛みする。

「エリック先輩、俺、あんな奴に絶対負けたくないっス」

「俺も」

珍しく機嫌悪くアランも言った。緊張など吹き飛んでしまったようだ。かえって、バンドの為には良かったのかもしれない。

そこへ、ウィリアムさんとグレルもやってきた。ムッとした表情の面々を見て、グレルが驚く。

「どうしちゃったのヨ。アランまでそんなカオして」

「ちょっと…セバスチャンが…」

「え?セバスちゃん来たの?何処どこ?」

途端にハートマークの目になるグレルに、俺は怒りの消化不良の八つ当たりで、軽くげんこつをお見舞いした。

「ギャッ。何すんのヨ、エリック!」

「あいつは止めとけ。性格が悪りぃ」

などと話していると、スタッフが、客席が埋まった為、開演を早めると言ってきた。今しがた去ったばかりのセバスチャンも、シエルの後に付き従ってやってくる。いよいよだ。待たされた分、期待も不安も大きくなる。

「紳士淑女の皆さま方、お待たせしました!今宵お届けするのは、アンダーテイカーのプロデュースバンドお披露目公演!」

歓声がわああっと上がる。大スクリーンに写し出された司会は、ハイパーメディアクリエイターとして有名な、ドルイットだ。それにも驚いたが、いきなりの呼び込みにも驚いた。

「まずは、『女王の番犬』!」

二人は顔を見合わせたが、躊躇なく出ていった。

「そして、『デスサイズ』!」

負ける訳にはいかない。俺たちも、ステージモードに切り替えて、眩しい光の中へと歩き出した。

「アンダーテイカープロデュースでデビュー出来るのは、どちらか一組!」

眼前には、見た事のない一万四千人の観客がひしめきあっていた。楽器はそれぞれ、ステージ上にセットされている。覚悟を決めて、俺たちは発表を待った。

End.

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