トモコレ-2

□【トモコレ日記:49】
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今日はいよいよ、対バンの最後の日となる。いつもは夕方からだったが、今日は真っ昼間からだ。

宣伝は打ってなかったが、いつの間にか俺たちの噂は広がっていて、昼間でもオールスタンディングの客席には、人がひしめきあっていた。

いつものように、アンダーテイカーが投票箱を設置して、どちらが先にやるかを決める。ヴァイオリンの珍しさが巧を奏するのか、順番は今のところ全敗だった。だが、演奏の勝敗とは関係ない事は分かっていたから、ステージから『女王の番犬』の音が流れてきても、さほど気にはならなかった。

「これでどっちがデビューするか、決まるんスよね…」

「やったからには、勝ちたいですね」

「もしデビューが決まったら、ずっと一緒ネ、ウィル!」

「俺、何か緊張してきた…」

「今まで通りで良いんだ、アラン。俺たちにゃ実力がある」

思い思いに、今の心境を語る。『女王の番犬』の演奏に、惜しみない拍手が送られ、俺たちの出番がやってきた。

日曜とはいえ、噂を聞き付けてわざわざ昼間にやってきた客だ、ステージは大いに盛り上がった。だが客層は、シエルくらいの子供から少し年配層まで、好みで投票が分かれる事を考えれば、油断はならなかった。

「俺たちは『デスサイズ』。投票よろしく!」

ロナルドが短く言って、俺たちのステージは終わった。常ならば、勝者の楽屋にアンダーテイカーが現れる。だが今日はいつまで経っても、彼は姿を見せなかった。

代わりに、ハウスのスタッフが、一通の手紙を持ってきた。代表して受け取り、封を開けると、そこには。

『迎えの車にお乗り』

とだけ書いてあった。興味津々で覗き込んでいたメンバーが、勝敗の決着を記した手紙ではなかった事にやや落胆するも、気を取り直して仕度を始める。ステージに残されたままのベースを取りに行こうとすると、スタッフから声がかかった。

「あ、楽器は移動済みなので、車に乗って欲しいそうです」

俺たちは異口同音に、疑問符を口にする。アンダーテイカーだと気付いていないスタッフは、平々凡々と語った。

「いえ、僕も車に乗せろとしか聞かされてなくて」

どういう事だろう。顔を見合わせ、俺は皆に小さく肩をすくめて見せた。

楽屋口に出ると、黒いワンボックスカーが二台、待っていた。『女王の番犬』の二人が、先に乗り込んで走り出していくのが見える。

「俺たちだけじゃないみたいだな」

「うん。エリック、乗ろう」

「ああ」

五人が乗り込むと、発進と共に後部座席についた小型テレビが灯る。眩しく瞬くフラッシュで目がチカチカして、一瞬分からなかったが、そこに映っているのは全盛期のアンダーテイカーの姿だった。

何だ…?DVDか…?

『では、今からチケットを発売するという事ですか?』

記者会見のようだ。あれ、アンダーテイカーって…。俺が思うのと同時に、隣のアランも声を上げた。

「アンダーテイカーって、ライヴ以外では、コメントもした事ない筈…」

「見て!生中継って書いてあるワ!」

「マジっスか!」

慌てて身を乗り出して画面を見詰めると、スーツに眼鏡、長い銀髪を後ろで一纏めに縛ったアンダーテイカーが、記者の質問に答えていた。

「チケットはもう売り出してるよぉ。開演は六時、場所は武道館」

『プロデュースするユニット名は?』

「『女王の番犬』」

五人全員が息を飲んだ。

「…と、『デスサイズ』のどちらかさ」

勝敗は、武道館で発表されるという事か。

その時、関係者がアンダーテイカーに何か耳打ちをした。

「おや、皆まだ小生に興味を持ってくれていたようだねぇ。チケットはソールドアウトだよ」

当日に売り出したチケットが、一時間経たずに売り切れたという。

「『女王の番犬』と『デスサイズ』、武道館で弾けるのは、どちらか一組だけさ」

アンダーテイカーは長い前髪の下で笑って、追いすがる記者の質問を後に、席を立った。

End.

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