トモコレ-2

□【トモコレ日記:47】
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きっかり五曲やって、『女王の番犬』は演奏を終えた。

「ご清聴、ありがとうございました」

慇懃にセバスチャンが一言、添える。歓声が上がるのを、俺たちはステージ袖で聞いていた。

アウェイになった空気に負けぬよう、五人で掌を重ね合わせて気合いを入れる。心地よい緊張感に、胸が高鳴った。

入れ違いに『女王の番犬』の二人とチラリと目を合わせてステージに出る。セバスチャンは、不敵に笑っていた。負けねぇ。俺はその表情を見て、己が奮い立つのを感じていた。

それぞれが持ち場につき、音合わせを始める。宣伝もしていない小さな箱なので、二百名足らずのスタンディング客はざわついていた。ロナルドがこだわった黒スーツが、好感触のようだ。無難にポップスから始める手もあったが、俺が一曲目に選んだのは、グラムロックだった。

ロナルドがスティックでリズムを刻むと、演奏が始まる。それは、いつかアランに聞かせた、情事の最中、頭の中でなっていた曲だった。俺たちの音楽性がハッキリ出た、自信作だ。

「『君はまるでスパイダー、綺麗な指で糸を紡いで、僕を捕らえて離さない──』」

ウィリアムさんがスタンドマイクで歌い出すと、客が身体でリズムを取るのが見えた。アウェイ感はなくなり、客と俺たちとが一体になる。

演奏だけで勝敗を競う為、MCはしないよう言われていた。その為、五曲の持ち時間はあっという間に過ぎる。それでも五曲目には、一部の客がヘッドバンギングをするまでにノッていた。
ギターソロに合わせて、俺はアランと向かい合ってベースをかき鳴らす。

最後の曲が終わると、俺はピックを客に投げた。ワッと若い女たちが群がる。

「アランも投げろ」

「えっ、俺も?」

アランは驚いたが、客の熱が引かない内に、遠慮がちにだが俺に倣った。同じように、客が奪い合いをする。その盛り上がりの中で、ロナルドが短く言った。

「俺たちは『デスサイズ』。また可愛がってあげるよ、仔猫ちゃんたち」

黄色い悲鳴が上がる。ロナルドは最後に自慢のドラムテクを幾らか披露し、客をわかせて出番終了となった。メンバー紹介を短く済ませると、ハケていく俺たちに声がかかる。

「まずは、成功だな」

「うん、お客さん盛り上がってたな」

思わずアランにキスしたいほどの興奮を懸命に押さえ付け、俺は楽屋に向かいながらアランと並ぶ。アランも頬を上気させていた。

楽屋に戻ると、程なくしてアンダーテイカーがやってくる。結果は──。

「おめでとう、『デスサイズ』の諸君。一回目の対バンは、君たちの勝利だよぉ」

俺はどさくさに紛れて、わっとアランを抱き締めた。グレルもウィリアムさんに抱きついて、嫌な顔をされている。ロナルドは、満面の笑みで万歳していた。

「エ、エリック…」

アランが、腕の中で真っ赤になっている。分かってる。少し大胆過ぎる事は。

だが俺は、皆の注意が散漫な内に、アランのブラウンの髪に口づけた。

End.

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