トモコレ-2
□【トモコレ日記:41】
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朝から夕方までの警備員の仕事を終え、携帯を見てみると、着信があった。昨日の今日だ、アランだと確信して確認してみるが、意外にもそれはロナルドだった。少しだけガッカリしてメールも確認する。これも、ロナルドからだった。
何だ。メールを開くと、何かのURLが入っていた。文面はなし。いぶかしみながらも、そのURLに繋ぐ。YouTubeだ。
『──俺たちのデビューライヴへようこそ!』
ハッとした。映像は不鮮明だが、携帯で撮ったとおぼしき動画は、昨日の俺たちだった。音声は鮮烈に入っている。再生回数を見ると、投稿されてから僅か十二時間で、三百回を超えていた。コメント欄には、「カッコいい」「歌も演奏も上手い!」「ルックスも良かったよ♪」などといった賛辞が並ぶ。
ウィリアムさんを引き入れるのにいっぱいいっぱいだったが、こういったプロモーションもありだったな、と投稿した奴に感謝する。と同時に、俺はロナルドの番号をプッシュしていた。待ちかねたように、すぐに電話は繋がった。
『もしもし、エリック先輩?動画見ました?』
「ああ、今見た」
『ヤバイっしょ?どんどん新曲作って、ネットにアップしたら、俺たちイケるんじゃないっスか?』
携帯の向こうの声が弾む。確かに、今の勢いは大切かもしれない。
「そうだな…まずあと十曲は作って、ハコでライヴだな」
『俺も曲作るっス!』
「ああ、俺も作る。楽譜はパソコンに送ってくれ」
「了解っス!」
通話を終えると、頭の中が音符でいっぱいになった。十年ほどバンドをやってきたが、これほどインスピレーションのわく手応えのあるメンバーは初めてだった。同僚への挨拶もそこそこに、俺は急いで家路を辿った。
* * *
家に帰ると、留守電のランプが点滅していた。またロナルドか?ディスプレイを覗くが、知らない番号だ。再生ボタンを押すと、何処か間延びした男の声が聞こえてきた。
『やあ、『デスサイズ』のエリック・スリングビーくんかい?YouTubeの動画はもう見てくれたかねぇ…あれをアップしたのは小生さ。ライヴの後、君の車のナンバーから、この番号を調べさせて貰ったよ、ヒッヒッ…』
男は、偶然俺たちのライヴを見かけ、YouTubeでの反応も見た上で、俺たちのバンドをプロデュースしたいと言う。胡散臭い話だ。だが、最後に名乗って途切れた留守電に、俺は呆然と立ち尽くした。留守電の男はこう言ったのだ。
『小生は、アンダーテイカーだ。やる気があったら、店においで』
アンダーテイカー…!それはかつて、空前の大ヒットをとばした、伝説のヴォーカリストの名前だった。だが人気絶頂期に突然の引退をし、今は町外れで小さなミュージックショップをやっているという。本物なら、音楽業界を震撼させる話題になるだろう。
「アンダーテイカー…」
呟いてどれくらい電話を眺めていたのか、やがてドアが合鍵で開けられた。アランが、食材を手に入ってきて、ようやく俺は我にかえった。
「ただいま…」
「アラン!」
「わっ…!ど、どうしたんだエリック」
思わず俺は、アランを抱きすくめていた。弾みでスーパーのビニール袋が落ち、中から玉ねぎが転がり出る。
「アラン、アンダーテイカーって知ってるよな」
「勿論。彼がどうしたの?」
「昨日の俺たちのライヴを見て、プロデュースしたいって」
「…え?」
半信半疑なアランにも、留守電を聞かせた。するとアランは、大きな瞳を更に見開き、確信をもったようだった。
「エリック…!これ本物だよ!俺、アンダーテイカーのライヴDVD持ってるもん!」
確かに、この独特の話し方は、真似するのが難しいくらい個性的だ。今度はアランの方から、飛び付いてきた。
「おめでとうエリック!アンダーテイカーの店に行こう!」
「待て待て」
抱き締め返し、今にも部屋を飛び出していきそうな勢いに、俺は笑いながら待ったをかけた。
「メンバーの了承が必要だ。俺はロナルド、アランはウィリアムさんとグレルを頼む」
「うん!」
アランが密着したまま瞳を輝かせて見上げてくる。
「んっ…」
堪えきれず、俺はその桜色の唇に口づけた。アランも応えてくれる。俺たちがそれぞれのメンバーに電話し始めるのは、それから十分後の事だった。
End.