小話纏め-3
□【ラヴァーボーイ】
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昨日、俺はエリックさんに呑みに誘われた。もちろん嬉しかったし、即決で行くと決めた。
だけど…呑んだ後の記憶がない。朝、俺は下着一枚で、エリックさんの部屋と思しき場所のベッドで、同じように下着一枚のエリックさんの横に寝てた。
何だろうこれ…どうしようどうしようどうしよう。エリックさんは、最近落ち着いたけど、昔は男も相手にしてたらしいのは、噂話で知っていた。
俺…エリックさんと…?!
そこへ、目覚ましのベルが鳴る。考え込んでいた俺は、飛び上がるほど驚いてしまったけど、エリックさんは軽く唸っただけだった。
「ん〜…」
ハッ!そうだ、今日は俺休みだけど、エリックさんは出勤だ!いつも遅刻をウィリアムさんに怒られてるから、起こさなきゃ!
「エリックさん、起きてください、遅刻しますよ!」
揺さぶってみるが、やはり鈍い反応しか返ってこない。
「目覚まし消してくれ…」
「駄目です、これ以上遅刻したら減俸ですよ!」
「あと五分」
「え。ほ、本当に五分で済みますか?」
「お前が恋人になってくれたら起きる」
「なります、なりますから…って、えぇ?!」
思わず答えてしまった後、驚きに身を引く。
「あっ」
ベッドから落ちそうになった俺を、すんでの所でエリックさんが抱き止めてくれた。
「っぶねーなー。お前だけの身体じゃないんだから、気を付けろ」
「え…あの…はい…」
逞しい腕の中に抱き込まれ、エリックさんの匂いに包まれて、俺は心臓が爆発しそうになった。やっぱり昨日…。
「約束だぞ」
「えっ?」
「恋人」
「はい…あのでも…すみません、俺昨日の記憶なくて…」
「ああ、アラン誤解してるな。昨日は、お前が二杯で酔い潰れたから、部屋に連れてきただけだ」
「えっ…でも、裸…」
密着したエリックさんの鼓動も、少し早い。殆ど裸で抱き合ってるからだろうか。俺が記憶がないのを怒ってるからだろうか。
「ん?何かおかしいか?俺はガキの頃から寝る時はこのカッコだぞ」
それってつまり…。
「眠っただけ、ですか」
「ああ」
うわっ。俺、一人で恥ずかしい妄想してた。一気に顔だけでなく体中が、ピンクに染まる。それを見て、エリックさんが笑った。
「分かりやすいよな、お前。昨日も、いきなり『エリックさんが好きなんです!』って迫ったかと思ったらすぐ酔い潰れてよ。俺のやる気はどうしてくれるんだ」
「え…」
「約束だぞ」
「え…あ…恋人?」
「そうだ。俺もお前が好きだ、アラン。今夜は、念入りに身体洗って待ってろ。言っとくけど、お前が初めての『恋人』だからな」
真っ赤に上気したまま二の句が告げないでいる内に、エリックさんは身支度を瞬く間に整えて、出て行ってしまった。
恋人…エリックさんも、俺が、好き?
そして最後に残された言葉の意味に気付き、俺は眩暈が止まらなかった。
嬉しいけど…倒れそう!
俺はベッドに潜る。するとエリックさんの体臭が色濃く残っていて、余計に妄想が止まらなくなって、俺は言われた通りバスルームへ飛び込んだ。
End.