エリアラ-1
□【ハネムーン・ベイビー】
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街の喧騒が心地良い。エリックとアランは、初めての一泊旅行にはしゃいでいた。まあ主に、『はしゃぐ』という表現が当てはまるのは、アランだったが。
「見て見てエリック!この人形、先輩たちにそっくりだ!」
立ち止まってショーウィンドウに掌をつき、アランが楽しげに声を上げる。エリックは、ポケットに両手を突っ込んだまま腰を折り、ん?と目を細めた。
そこには、大きめにかたどったドールハウスの中に、ぬいぐるみが二つ、並べて座らされていた。
一匹は、全身真っ黒で口を真一文字に結んだ、何処か気真面目そうに見える兎。一匹は、全身真っ赤で隣の兎にしな垂れかかり、何処か色気のある風な猫。今にも、「ウィイルゥ〜」とハートをまき散らした声が聞こえてきそうだ。
「…ホントだ」
「な?」
二人で顔を見合わせ、クスリと笑う。
それぞれに土産に買って帰りたいくらいだったが、グレルはともかく、ウィリアムは冗談が通じない。「なぜ私にぬいぐるみを?」と言われてしまえば、返す言葉もない。
それに、明日は余裕をもって帰りたかったから、死神派遣協会の連中への土産は、すでに菓子などの無難なものを買ってしまっていた。
「あの後ろの方の犬なんか、アランに似てるんじゃないか」
エリックはわざと、アランとは似ても似つかぬブルドックのぬいぐるみをさして、しれっと言う。
「あー、ひどい!」
本気でぶつつもりはないが、アランは拳を振り上げる。エリックはその手首を掴み、二人で笑いあった。
「…リック?エリックじゃない?!」
旅先で知る顔もなく、安心しきってじゃれあっていた所へ、不意に声が掛けられ、思わず二人はパッと離れた。