エリアラ-1
□【君を迎えに/3】
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夕焼けのオレンジに染まる空の下、機関車が止まる。降車口でそれを待っていたエリックは、扉を開けて大地に立った。待ち合わせていた人物は、探すまでもなく、出口の真ん前の外灯に軽くもたれて待っていた。
「お帰り、エリック」
「アラン。アンタ、俺が何処から降りてくるのかまで分かるのか?」
「それは企業秘密だ」
アランは、ちょっと笑って唇に人差指を当てる。外灯から身をはがすと、並んで歩き始めた。
「友人には会えたかい?」
「ああ、二年ぶりになる。楽しかったよ」
「そう。良かった」
心からアランは言った。エリックは、小さめのトランクを軽く上げて見せる。
「アンタに土産があるんだ」
「俺に?」
「ああ。アパートに寄ってってくれ」
アランはやや困った顔をした。
「…何か都合悪いか?」
さすが客商売をやっていただけあって、その顔色を読んでエリックがすぐに反応する。
「あ、いや。じゃあお言葉に甘えて」
(アパートまで行って、自分を抑えられるかどうか…)
それがアランの心配事だった。
* * *
「散らかってるけど、適当にかけててくれよ」
本当に散らかっていて、アランはクスリと笑う。脱ぎ落されたままの衣服を拾ってたたみ、二人掛けのソファに積み上げる。エリックは、紅茶を入れにお湯を沸かしにかかっていた。
エリックが死神だった頃には、主にアランのアパートでのデートが多かったから、人間界とはいえエリックのアパートに来るのはやや緊張する。やがてエリックが、紅茶と菓子をトレイにのせて戻ってきた。
「美味いから食ってみな」
「ああ。いただきます」
特に甘い物が好物という訳ではなかったが、せっかくだから味わった。アーモンドスライスが上に敷き詰められたミルフィーユパイで、甘すぎず、あっさりして美味しい。
「本当だ。美味しい!」
「な?」
エリックは砕顔する。アランはその笑顔に惹きつけられた。かつてのエリックは、こんな風に顔中で笑った所など見た事がなかった。
「また固まったな。俺の顔、そんなに男前か?」
気付くと、またエリックの顔を凝視していたらしい。アランは慌ててうつむいた。
「そんな訳ないだろ!ちょっと考え事してただけだよっ」
「そんな力一杯、否定しなくても良いだろう…傷つくぞ俺」
言葉とは裏腹に、くつくつと笑いを噛み殺している。アランの頬が真っ赤だからだ。