エリアラ-1
□【君を迎えに/1】
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あの日──セバスチャン・ミカエリスと戦って以来、20年ぶりの人間界だ。夜の街を歩き、監視のない自由な空気を肺一杯に吸い込むと、アランは目当てのバーに入った。薄暗い店内を進み、カウンターに座る。
「いらっしゃいませ」
ぼそりとした呟きと共に、L字型に曲がったカウンターの向こうから、バーテンダーが一人やってくる。
「ご注文は?」
アランは、言葉を失った。そこには、紛れもなく『エリック・スリングビー』がいた。年若く、トレードマークだったコーンロウも編んでいないが、瞳は深い新緑色で、まるで少しだけエリックの時間を巻き戻したように見える。
どれだけ顔を眺めていたか分からないが、その『エリック』は、やがて小さく吹き出した。
「お客さん?俺の顔に何か付いてます?」
「あっ…いや、ごめんエリック。何でもない」
エリックは怪訝そうな顔をする。
「何で俺の名前…」
「あ…前に一回来た事あるんだ。その時に」
「へぇ?お客さんくらいハンサムな人なら、忘れないと思うんだけど。…名前聞いても良いですか?」
「アラン」
「アランさん、ご注文は?」
「アランで良いよ」
適当に注文する。エリックは、慣れた手付きでカクテルを作る。アランは、その姿を見つめていた。エリックは、眼鏡をかけておらず、もちろん革手袋もしていない。それは、眠る時に、アランの前でだけ見せていたリラックスした姿だ。胸が痛い。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
また追憶にひたっていたアランは、慌てて礼を言う。エリックは、バーテンダーとして放っておけない気分になった。