エリアラ-1

□【ライセンス】
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エリックと暮らし始めてから、もう3年経つ。

どうしてそうなったかは覚えていないけど、気付いたら俺は、知らない街にいて、冷たい雨が降っていて、おなかはぺこぺこだった…。もう歩く気力も体力もなくなって、電柱の根元に座り込み小刻みに震えながら、俺はこのまま死ぬんじゃないだろうか、と本気で思い始めていた時だった。エリックが、話しかけてきたのは。

「ん?お前、大丈夫か…?」

そう言って、両脇に掌をかけ、ふわりと俺を抱き上げた。優しい笑み。俺は夢中でエリックにしがみ付き、顔中にキスの雨を降らせた。薄汚れて濡れ鼠で痩せっぽちな俺に、手を差し伸べてくれる人なんて、他にいないと思ったから。

「っはは、分かった分かった。腹減ってるだろう、帰りに飯買ってこう。あと、風呂にも入んねぇとな…」

スーツが汚れるのも構わず、逞しい腕の中にびしょびしょの俺を抱いて、そのままアパートに連れ帰ってくれた。

言葉通り、まず部屋に入ると、買ってきたご飯を山盛りに器によそってくれ、俺はもう何日も食べていなかったから、ガツガツとそれをかっ込んだ。エリックは、

「おいおい、喉つっかえるぞ。飯は逃げねぇから、落ち着いて食えよ」

と言いながら、柔らかく俺の髪を撫でてくれた。でも本当にその時は、おなかと背中がくっ付きそうだったんだよ。今思い出すと、行儀が悪かったな、ってちょっと恥ずかしいんだけど。

それから、バスルームで冷え切った俺の体を温めてくれた。シャンプーが目に入らないように気を付けながら、エリックは俺を洗ってくれた。灰色に濁っていた俺の髪は、本来のつやつやとしたブラウンになった。

「お、何だお前、えれぇ美人じゃねぇか。こりゃ、良い拾いモンしたな…」

バスタオルに包まった俺に、ドライヤーをかけながら言われたその言葉に、一瞬で恋に落ちた。俺が、美人…?誰にも必要とされていなかった俺に、そんな事を言ってくれたのは、君だけだよ、エリック。

念の為にと病院で身体に異常がない事を確認してくれ、記念にと、ペンダントまでプレゼントしてくれた。

俺の名前の頭文字『A』がペンダントヘッドの、シルバーにピカピカと輝くペンダント。凄く嬉しかった。俺はそれが誇らしくて、エリックと出かける度に、わざと見せびらかすように揺らして歩いた。

エリックは毎日、決まった時間にスーツで出かけていっては、決まった時間に帰ってくる。7日にいっぺんくらいは、スーツじゃなくラフな私服で、俺とずっと一緒に過ごしてくれたけど。俺は毎日エリックを玄関まで見送り、アパートの階段を上がってくる足音が聞こえると、待ちきれなくてドアが開くのを、玄関先で待っていた。そして、飛び付いてキスをした。

「ただいま、アラン」

笑いながら、エリックは俺を抱きしめ返してくれる。幸せだった。この上もなく、幸せだった。
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