その他CP-2
□【Vieler glücklicher Umsatz des Tages】
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「いいえ、坊ちゃん。私は、ヴォルフラムさんが羨ましい。何処へ行くにも、一日中、いつも一緒なのですから…」
「なっ…」
聞いた事もないセバスチャンの甘い台詞が、シエルの肌を耳まで紅く染めさせた。返す言葉を持たないシエルをいい事に、セバスチャンはそのまま彼にそっと口付ける。
「見かけはアレですが、研究熱心なサリヴァン様が一生懸命作ったケーキです。味はきっと美味でしょう。一口だけでも、召し上がってください」
そう言って、シエルの抱えるケーキらしきものの表面を舌ですくって、再び口付けた。シエルは条件反射で瞳を閉じる。
「ん…ふっ…」
確かに味は、ケーキのそれだった。だがやがて生クリームの味は薄れ、冷たくて甘い甘い、人間を堕落させる悪魔の唾液の味が口内に広がった。シエルほど孤高にプライドを保っていなければ、あっという間に溺れてしまうだろう味だった。chu…とリップ音を残し、セバスチャンがシエルの顔を覗き込む。
「如何ですか?私には、人間の味覚がないので分かりませんが…」
生クリームよりセバスチャンの味に気を取られていたなどと、言えるはずもない。セバスチャンは、逸らされてしまうシエルの紅顔を間近に眺め、笑顔を見せた。
「不味くはなかったようですね。嗚呼…せっかくのリアルファーが、生クリームでベトベトになってしまいました。もう一度お召しかえが必要ですね…」
その後。
バースデーパーティー中、ずっとセバスチャンとシエルを交互に盗み見てはニヤニヤするサリヴァンに苛立ち、エリザベスからは「眉間に皺が寄ってるシエル、可愛くな〜い!」と駄々をこねられ、散々なバースデーになったシエルだった。
ただひとつ、朝のセバスチャンからの甘い囁きがとびきり特別なプレゼントになったとは、シエルが口にする事はけしてなかったけれど──。
End.