その他CP-2

□【Vieler glücklicher Umsatz des Tages】
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やがて朝食を済ませ、シエルは立ち上がっておろしたてのドレスアップスーツの着心地を試すよう、顎を上げて大きく伸びをした。

「おや」

食器を片付けながらそれを何気なく目にしたセバスチャンが、ぽつりと漏らす。スラックスのポケットから肌色のテープを取り出すと、シエルの足元に優雅に跪いた。

「坊ちゃん。そのままで」

「ん?何だ?」

「いえ。何でもございません。お気になさらず」

その時、シエルの寝室の扉が控えめにノックされた。この屋敷の中で、『控えめに』ノックが出来る人物など、一人しかいなかった。

「どうした、タナカ」

扉越しに、何処か飄々とした、穏やかな声音が返る。

「おはようございます、坊ちゃん。そしてお誕生日おめでとうございます」

「前置きは良い。入れ」

「では、サリヴァン様だけ…」

そう言うと、扉が開き、ヴォルフラムに抱えられたサリヴァンが入ってきた。その両手には、よく見ればケーキに見えなくもない代物があり、更によく見ればチョコレートのドイツ語で何事か書かれてあった。

「誕生日おめでとう、シエル!喜べ、お前の小さな身体に相応しい、糖質と脂質を完璧に計算したケーキを作ってやったぞ!!」

『小さい』という言葉に反応して、シエルのこめかみに青筋が薄っすら滲む。だが鼻の頭に生クリームをつけたサリヴァンは、無邪気にケーキらしきものを差し出した。『Vieler glücklicher Umsatz des Tages』。それはセバスチャンには、かろうじて『誕生日おめでとう』と読み取れた。

「坊ちゃん。レディ手作りのケーキですよ。お礼を言ってさしあげないと」

シエルが頬を引きつらせた。

「…ありがとう。だがこんな朝早くから、ケーキは食えん…っ」

「私も、厨房をお貸しする約束はしましたが、まさかこんなに早くからとは…」

「初めての試みだからな!万全をきして、徹夜で作ったんだ!ヴォルフ、下ろしてくれ」

「はい、お嬢」

ヴォルフラムが宝物を扱うようにそっとサリヴァンを床に下ろし支えると、満面の笑みでケーキらしきものが再び差し出された。
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