その他CP-2
□【Vieler glücklicher Umsatz des Tages】
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「お前…そんな所まで計算づくか」
「ええ、美味しいアーリーモーニングティーをご提供するのも、私の役目でございますので」
シルバーのポットを掲げ、高い位置から滔々と紅茶を注ぎ、セバスチャンはウェッジウッドのカップとソーサーをシエルに手渡した。納得がいかないような不機嫌な色を、眼帯に覆われていないひとつきりの蒼い瞳に浮かべながらも、シエルはそれに唇をつけた。
「如何ですか?」
「…………………………美味しい…」
たっぷり十秒は経ってから答えると、微かにセバスチャンがクスリと笑んだ。
「それはようございました。朝の紅茶がなければ、英国紳士の一日は始まらないと申しますから」
その美味に幾らか気分を変えたのだろう、シエルがキッパリとした声音を出した。
「今日の予定は?」
「九時からフロイライン・コンスタンツェのドイツ語レッスン、課題が終わり次第、ファントム社のクリスマスプレゼント用商品の書類に可否のサインをお願い致します」
「午後は、いつも通りか」
セバスチャンが一口大に切り分けたパンをフォークで口に運びながら、シエルは気だるそうに言葉を紡ぐ。
「ええ。レディ・エリザベスをお招きして、バースデーパーティーになります。今年は、サリヴァン様たちもいらっしゃいますから、いつもより賑やかになりそうですね」
「あいつは、人の二倍は食うからな。今日くらい、満腹になる量を用意してやれ」
「かしこまりました…」
「…何が可笑しい」
セバスチャンの笑顔の、微妙なニュアンスの違いを感じ取り、鋭くシエルが切り込んだ。セバスチャンが拳を口元に当て、今度は押し殺さずに忍び笑う。
「クス…失礼致しました。坊ちゃんにも、人の情けがあったのだと思いまして」
「悪魔のお前に言われたくはない」
「いえ…貶したつもりはないのですが」
今度は、シエルが今日初めての笑顔をみせた。挑戦的な、挑発的な、不敵なそれを。
「フン。お前こそ、情けなんて言葉を知っていたんだな。お前の辞書には、載っていないと思っていたが」
「おや…酷いですねぇ。これでも、古代ギリシャ語の時代から、英語はもちろん全ての言語は網羅しているつもりですが」
「ハッ」
上品な顔立ちとは不似合いに、シエルは鼻で笑ってセバスチャンの言をそのままなぞる。
「貶したつもりはないけどな」