トモコレ-1

□【トモコレ日記:6】
1ページ/1ページ

祭りは最終日、大いに盛り上がっていた。あちこちで叩き売りが野次馬を集め、進行方向に対し直角に人の波がうねっている。横切るには、骨が折れるだろう。

「アラン」

「あっ…」

はぐれてしまわないよう、自然と俺は手をのばしていた。下心もないまま二回りほど華奢なアランの手を握る。僅かに躊躇いが繋いだ手から伝わって、ようやく俺はその行為の意味に気付いた。

そうか。顔色を伺うと、人混みにもみくちゃにされながらも、懸命に俺の手を握っている。仄かに染まった頬だけが名残で、アランも手を離すまいと必死だった。俺もそれに応え、ぐいと力を込めてアランを引き寄せると、流されてしまいそうだった彼を胸元に抱き寄せガードした。

「大丈夫か?」

片手はきつく握りあい、片手はアランの肩を抱きながら問う。

「う、うん」

突然の密着に、今度は間違いなく頬に朱をはいて、アランはギクシャクとみじろいだ。心臓の鼓動すら互いに感じられ、アランは俺よりも随分と早いのが伝わってきた。アランに気取られぬよう唇の端だけで小さく笑い、俺はそのまま胸の中に彼を閉じ込めたまま、肩で切るように人波を渡っていった。

「凄い混雑だな」

「あ…あの」

眼下に微かな衣擦れの音と清潔な石鹸の香りがして、はたと俺は我に返った。腕の中には、ひどく居心地悪そうに俯くアラン。思わず、パッと両手とも勢いよく離した。

「あっ」

下駄を履いたアランが、僅かにぐらついて、再び俺はパッと支えた。

「あ、ありがとう」

今度はアランは素直に礼を言って嬉しそうな笑みを見せた。

「行くか」

「うん」

電灯が点々と照らす夜道を、カタカタと下駄の音と並んで歩く。やがて砂浜に入ると、

「あ、ちょっと待って」

下駄を脱ぎ手にぶら下げると、素足で砂地の感触を楽しみ始めた。

「あったかい」

「陽が沈んだばっかだからな」

誰かが、置いていったものか忘れていったものか、レジャーシートが敷いてある。ちょうど良いとばかり二人でそこに座ると、寄せては返す波の音だけが静寂の中に浮かび上がった。先ほどまでの喧騒が嘘のようだ。

つい肩を抱こうとのびた腕を、アランの言葉が遮った。

「月が見てる」

詩的な表現で気に入った。無意識に俺の下心を見透かして、アランは言葉を続けた。

End.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ