漆黒、十五夜


真っ赤な夕焼け。

真っ赤な空に紫煙がユラユラ揺れる。

俺は屯所の縁側で腰掛け黄昏れていた。

仕事は昼間で終わっちまったからな。

1人の時は疲れを癒す様にボーッとしてる。

1人ならな…。

しかし…。

「副長、ちょっといいですか?」

「邪魔なんでさァ」

山崎と総吾がこの縁側に何か持って来た。

「…んだ?それ」

俺は気になって、頭だけ後ろに振り向き声を掛けてみる。

「今日は十五夜ですよ、副長」

厨房で作ったのか、月見団子を持った山崎が微笑みながら俺の言葉に答えた。

「忘れるなんざボケ老人ですかい?あんた」

すると、ススキを手に持ち隣にいた総吾が攻撃を仕掛ける。

こいつ…。

「うっせーよ!誰がボケ老人だ、コラァ!」

頭にきて怒鳴ると、総吾は何を思ったのか手に持ったススキを俺の頭に刺してきて

「山崎ィ、ススキはここでいいだろィ?」

そう山崎へと投げ掛けると、山崎の顔が一気に蒼白した。

「いや…、沖田隊長…ススキは花瓶に…」

「総吾ぉぉお!ススキは花瓶だろーが!」

山崎が言い終わる前に総吾の行動で更に頭にきた俺は、ススキを手に取ると思いっ切り茎を折る。

見事にポッキリと。

「あぁぁぁあ!!!!」

それを見た山崎は指を差して、鼓膜が破れる様な叫び声を上げた。

うるせぇ…。

こいつの甲高い声どうにかなんねーの?

「どうするんですか、副長!この日の為にせっかく用意したのに〜!」

そんな歎いた声を上げる山崎に対して、俺の苛付きは最高潮に達してしまう。

「あぁ?!もう1回買えばいいじゃねーか!」

「えぇ〜?!」

しかし、山崎は反抗する様に明らかに嫌な顔をした。

生意気じゃねーか!

だが…

「あれェ?誰が折ったんですかねィ?」

総吾が山崎に加勢する様に痛い所を尋ねてくる。

「…っ」

「ここは折った奴が買ってくるべきでさァ。ねぇ、土方さん?」

こいつはぁぁぁあ!

総吾は黒い顔で口元だけニヤリと笑い、俺を上から目線で眺める。

「上司にそんな事を言うなんざ、いい度胸じゃねーか」

「俺はススキを折っちまった犯人に言ってるんでさァ。土方さんじゃねーんでィ」

プチン

総吾の言葉で、俺の何かが弾けた。

「俺が行けばいいんだろうが!行けば!」

怒りからか、俺はただのガキみてぇな事を口にしていた。

「あれ?土方さんが犯人なんですかい?」

お前見てただろーが!

白々しいんだよ!

「でも副長…」

「いいんだよ!月を見なくて済むからな!」

そう

月なんて見たくねーんだよ…。

山崎が何かを伝えようとしたが、俺は聞かずに外へと行こうとする。

しかし…

「土方さん」

外へと行こうとする俺を、縁側から総吾が呼び止めた。

「ススキを手に入れるまでは、屯所に入れないって思いなせェ」

こいつ…何で上から目線なんだ?

俺の方がこいつの上司だよな?

「ちっ…」

舌打ちすると、俺は止めた足を進めた。

「それと土方さん」

まだ何かあんのかよ?!

俺は勢いよく振り向く。

「万事屋に行っても旦那はいねぇんで」

総吾は何かを伝え様とした目で俺を見ていた。

……分かってる。

分かってるんだよ、それは。

あいつがいねぇって事ぐらいはな…。

俺は総吾を無視して、屯所の外へと出て行った。

俺が屯所で知ってるのはここまで。

後は知らねぇ。




「沖田隊長…」

「あ?」

「今行っても花屋は開いてないんですケド…」

「ススキなんざ、そこら辺にあるだろィ」

「役所が最近、町の至る所にある草を除去したのであるかは…」

「知ってんでさァ」

「ひどっ!!!!」


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