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□リ
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「夏ももう終わるね、大石。」

菊丸が聞こえるか聞こえないかくらいでそう呟いたのを、大石は聞き漏らさなかった。

菊丸の目線の先には蝉の死骸がひとつ、ころり、と転がっていた。

菊丸はスニーカーのつま先で軽く触れるようにしてそれを蹴った。大した力は入っていないものの、死骸はがさりと音を立てて太陽によって熱せられた道路を滑った。

大石はたしなめるようにして菊丸の名前を呼ぶ。菊丸はわかってるよーん、といつもみたいに跳ねた声で言ったつもりだった。が、嫌と言うほど彼と一緒に過ごしている大石は、いやはや流石というべきか、先程の跳ねた声に彼の異変をきちんと感じ取ったらしかった。

「………夏が、終わったら」

菊丸の髪の毛先がゆるりと跳ねた。


菊丸がおかしなことをいうとき、大石は、自分からその話を掘り下げようとは絶対にしない。菊丸はそういう風にされるのが嫌いだ。だから一度話を逸らす。そうして、いつだって菊丸から話をしてくれるのを待つのだ。


「本格的に受験勉強をしなくちゃだな。」

はは、と大石はからからに渇いた喉から笑いを搾り出した。
菊丸はつん、と口を尖らせた。今言わなくてもいーじゃん、とでもいいたげである。


「夏が終わったらさあ、」

菊丸は先程の大石の言葉に返すように切り出す。大石はうん、と相槌を打った。


「俺も、死ぬと思うんだ。」





大石は、多分彼は蝉と自分を重ねたのだなあと思ったけれど、何故そんな風に言ったのかは理解できなかった。


ごうごうと音を立てて、入道雲が太陽を隠す。きっとどこかで雨が降るんだろう。菊丸はなぜだかここでは雨は降らないと断定できるような気がした。蝉は雲などお構いなしの様子で合唱を続ける。


「死んだらさ、俺は蝉になるから、そうしたら羽根をもいで蹴っ飛ばして欲しいんだ。」

羽根があったら、きっと空の果てを目指し飛んで行きそうだ。それはいやだ。死ぬのなら、大石の生きるこの街で死にたい。そうして君に蹴っ飛ばされたその先で幸せに息絶えたい。
らしくない、と思う。こんな難しいことを思うなんて、らしくない。だけれど、今、彼に言っておきたかった。伝わらなくてもいいけれど、ただ頷いてくれれば、と。それだけできっと自分は救われると思った。

菊丸の茶色の瞳はしっかりと大石を捕らえて離さなかった。大石は相も変わらず彼が何を言いたいのかわからなかったけれど、菊丸がそういうのならば、きっと全てが正しいんだろうと思う。がくりと首を動かし頷くと蝉たちのコンサートはいよいよフィナーレを迎えた。


「夏ももう終わるね。」

菊丸は向日葵のように、あるいは太陽のようにはにかみながら言う。
大石もああ、と相槌を打って笑った。


どちらからともなく繋いだ手はじっとりと汗ばみ始める。ふたりは更に互いの手を強く握り返した。
そうしてから菊丸は目を閉じて遠くの街で降る雨の音を、そうっと聞いた気がした。






リボン結びで贈ろうか





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甘くなくて電波な大菊を書きたかったのです

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