落とし物の心臓

□あのとき、あの場所で、
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俺とあの人が出会ったときのことは、正直あまりよく覚えていない。

ただ、あの人の着ていた半袖から覗く二の腕があんまりにも白かったということだけはよく覚えていた。






高校1年生の夏、期末試験で数学だけ赤点をとった。

点数がギリギリで足りずに赤点をとっていたのならまだよかった。

しかしながら点数は見るに耐えず、何があろうといつもにこにこと優しく微笑んでいる母親さえも眉を寄せそのまま押し黙ってしまったくらいであった。



そうして数分テスト用紙とにらめっこしてから、母はまたいつものように微笑んで言った。



『家庭教師でも、とりましょうか。』










『手塚国光です。よろしくお願いいたします。』


初対面の人間と話すのが苦手な俺はとにかくどこを見ていいのかわからず、ただあの人の二の腕をじっと見つめていた。

それでもなんとかちらりと盗み見たあの人の顔は、もう覚えてなんかいやしないのだ。






暑い暑い夏の日だった。






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