短編
□鳴らせよ汽笛、僕等の時代だ
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桜の花びらがはらはらと舞う。
卒業式には相応しい景色だなあとぼうっと思う。
「テニス部は任せたぞ、海堂。」
「…っス」
部長に声をかけられた海堂は静かに小さく頭を下げ、いつものようにふしゅうと息を漏らした。
その息にはどことなく寂しさがある気がした。
「寂しくなるっすよー、先輩!」
俺はというと、しおらしいのは性にあわないのでいつものように先輩方を見送ることにした。
「じゃあこれからタカさんちで祝賀会だね。」
「俺達は先に行くから、早めに来いよっ!桃!」
ばたばたと走りながら寿司ー!と叫ぶ菊丸先輩、
こらエージ!と菊丸先輩をたしなめる大石先輩、
今日はわさび多めにしておくよ、ありがとうタカさん、といつものように会話をするタカさんと不二先輩、
卒業式だというのにノートに何かを書き込む乾先輩、
そして、黙々と歩きはじめる手塚部長。
先輩たちの見慣れた背中を、もう同じ環境で見ることはないのだ。そう思うと、急に寂しくなった。
海堂が突然深々と頭を下げたものだから俺もそうだ、と慌てて頭をぺこりと下げた。
―いつか、あんたたちと対等に戦えるようになりたい。いや、戦えるようになるから、ぜってー待っててください。
頭を下げながらそっと、心の中でつぶやいた。
頭を上げると海堂はまだ頭を下げていた。
ちょっと長すぎるんじゃねえか?
そう思っていると、急に海堂の肩が震えだした。
―泣いている。
海堂はちいさな嗚咽を漏らしながら、頭を下げ続けていた。
もう先輩たちは見えない。だけど海堂は頭を下げ続けながら、泣いていた。
俺は、なんだか急にそうしたくなって、海堂の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「…頑張ってくれよなー新ぶちょーさん」
風が一瞬強く吹いて、また桜が散る。なんか、卒業式には相応しいなあとまた思った。
「………足引っ張んなよ、副部長。」
涙声でそう言った海堂に、ったりめーだろ、なんて言って、また髪をぐしゃぐしゃと掻き回しながら笑った。こんどは海堂も顔を上げて、ぶっさいくな顔でくく、と笑った。
鳴らせよ汽笛、僕等の時代だ
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