中編

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『先生…?』


ペンギン先生は無言で歩いていく。保健室は遠ざかる一方。



「……。」



ちょっとだけ、怖い。
先生はどっちかって言うと寡黙なタイプ。にしても寡黙すぎる。あたしが知っている中でぶっちぎりで寡黙だ。















しばらく歩いていた足がようやく止まった。



『(ここって数学準備室…)』



俵担ぎにされているから部屋のプレートが見えない。
けれども見える風景は間違いなく数学準備室の前の風景だ。




ガラッ






「少し待っていろ。」



あたしソファーに下ろすとそう言って先生は部屋の外に出て行った。












『……え?あたしこのまま?』



マジですか先生。








静かな部屋はグラウンドから生徒の声がよく聞こえた。



『(つか足痛くなってきたな…)』



あんまり気にしていなかったつもりなのに今更痛くなってきた。
怪我を認識したら痛くなるって本当なんだね。





『あー……。』


なんで先生はこの教室に連れてきたんだろ?
普通に保健室に連れて行ってくれればよかったのに。
いや、むしろあのままシャチに…。



『そうだあいつ!!あたしのこと子供って言ったんだ!!』



許さん!確かにナミみたいにボインじゃないけれども!


……。


ナミとかボニーみたいにナイスボディーだったら先生も少しは眼中に入れてくれたかな?

いやいや!!思い出せ名前!!前に先生が屋上で誰もがボインが好みな訳じゃないって、言っていたじゃないか!



『とりあえずシャチは後でシメてやる。』


「何を物騒なことを一人で言っているんだ。」


『おっ!?…かえりなさい…。』


心に誓いを立てていたところ、ペンギン先生登場。


「足、見せてみろ。」


『?はい。』


ソファーの前に回り込んできてあたしの前に座り込んだ。


『(うっわ…この体制すっごい恥ずかし…!)』


先生の手が足に触れた。

今あたし絶対顔赤い!

顔を見られたくなくてそっぽ向いた。




ら。











『っあ゛ーーーー!!!!』


「少し静かにしていろ。」


足捻られた!!
あたし捻挫したんだよね!?
なんでよけい痛くされてんの!?


「そこまで酷くないな。病院は行かなくても大丈夫だ。」


『酷いの先生!!つか痛い!!それ捻挫してなくても痛い!!』


悪びれた顔一つしないで手元の箱から湿布を取り出した。




「体育際は今から見学だ。」


『嫌です。』


きっぱり言ってやったら睨まれた。
…先生さっきからなんか怖い。


『だって、今年最後だし…。』


「ダメだ。ここにいろ。」


『はい!?せめて戻らせてください!!』


「閉会式になったら連れて行ってやる。」



ええええええなんか手強い。



正直、先生と二人っきりって言うのは嬉しい。いつもならチャンスだと食いつく。



『(でもちょっと気まずいんだよー…。)』


そう、ちょうど新学期始まったあの日から。


「ロー先生も言っていた 捻挫したなら休めってな。」


『え?いつ言っていたんですか?』


「ん? これ取りに行った時にだ。」


先生は手元の箱をよく見えるように持ち上げた。
それ取りに行くくらいならあたしを連れて行った方が早くね?


先生は手際よくあたしの足に包帯を巻いていく。



「…名前は、」



『はい?』


いつもはっきり物を言う先生が珍しく戸惑っている。


「名前は好きな異性がいるんだよな。」




…………。




『まぁ……。』



なんかいきなりだなぁ…。



「告白とかしないのか?」


『告白ぅ!?』


誰が?あたしが?
まぁ…。


『いつかできたらいいなって思ってますけど…。』


「そうか…。」


先生は少しうつ向き加減で表情がうまく読み取れない。


『先生…?』


「俺は告白する気だぞ。」







え……?








「だからお前も告白しろ。」


『な 、なんで急に…?』


先生はため息をついて立ち上がった。



「始業式の夜、お前言っていただろ。お互いに頑張ろうって。
だから俺も頑張ろうと決めた。」


先生はあたしの頭を撫でて立ち上がった。





「そうだな、賭けでもするか?」


『賭け……。』


「あぁ、名前の告白が成功したらびっくるを奢ってやる。
俺の告白が成功したら言うことを一つ聞いてもらうぞ。
お互いが成功、失敗したら賭けはなしだ。
期限は…卒業式の日の夕方までだ。」


賭けというには一方敵だ。

先生の告白宣言で頭が一杯なあたしはそんなことしか考えられなかった。














(夏は終わりました)
 

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