中編
□夏休みですよ、先生
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夏休み。
そう夏休み。
我等学生にとってはありがたき期間。
だがしかし。
あたしにとってはちょっと憂鬱な期間だったりする。
『ペンギンせんせぇ………!!』
「お前さっきからそればっかりだな。」
お隣りの家IN名前。
エースはため息をつきながら再びゲームに集中し始めた。
「あっ!!エース、俺やられる!!」
「俺が守ってやるから平気だ、そのまま行け!
」
なんて恥ずかしいことをさらりと言うんだこの男は。
「名前、ちょっと買い物行ってきてくれねぇか?」
『マジっすかサボ兄さん。』
「マジだ大マジ。これメモな。」
そう言って手渡された一枚の紙切れとお財布。
これでも一応お客様なんですよ、ワタクシ。
「ついでに肉も買ってきてくれ!」
『それはサボに貰ったメモによるね。』
「お菓子貰ってもついて行ったらダメだからなー!」
エース…。
あたしのこと何歳だと思っているんだ。
そんなやり取りを背中にあたしは炎天下へと繰り出した。
『やっぱり帰ろう。』
ダメだ、暑い。暑すぎる!!
『(溶けてしまうじゃないかこんな暑さ…!)』
もちろんあたしが。
てなわけで休憩しようそうしよう。
近くの公園に入って木陰があるベンチに腰かけた。
あぁ、空が蒼いぜ。
『(…そういえば何買ってくればいいんだろ?)』
メモ渡されたのはいいけど確認してなかった。
『……んじゃこりゃ!!!!!??』
牛肉5kg鶏ムネ肉3kg大根人参白菜白葱豆腐鍋用うどん9人前醤油顆粒の出しの素エトセトラエトセトラ……
『あの兄弟はあたしを殺す気か!!』
「何騒いでいるんだ。」
ピタッ
『ンッギャー!!!!』
怪談話とか聞くとヒヤッとするって言うけど、あたしが感じたのは頬っぺたを突き刺すような、痛いような、とにかくリアルなヒヤッだった。
誰だよコンチクショー!!文句を言ってやろうと思って振り向くとそこにはびっくると缶コーヒーを持ったペンギン先生。
『うお……。』
「なんだそのリアクションは。」
先生はため息をついてあたしの隣に座った。
『ま、さかこんな休日に会えるとは思ってなかったんでつい…。』
今すっごい心臓バクバクしてる。
暑いだの、サボの容赦無いメモを見ただの、いきなり冷たいのを当てられただの、色々原因はあるけど、先生を直視したっていうのが一番大きな原因だと思う。あたし乙女だなぁ…!
「…で、お前はさっきから何を一人で騒いでいたんだ?
遠くから見たら変人だぞ。」
『(変人…)おつかいですよ。お隣の。』
「おとなり?っていうとルフィか。」
『はいな。』
先生にあたしが叫んだ元凶を見せた。
「これは…。」
見た瞬間に眉間に皺を寄せた。
やっぱり引くって、この量は。
「鍋だな。」
『鍋ですと?』
「ちゃんこ鍋だ。」
先生はあたしにメモを渡すとため息をついた。
「この時期に鍋か…。まぁあいつらなら何でも在りだな。」
…あぁ、メニューのことね。
『え、ってことはあのおお食い三人衆の晩御飯をあたし一人で…?』
醤油切れたから買ってきてくれとかそんなノリだったんだけど!
「…仕方ないな…。」
がっくり肩を落としていると先生がひとり言を呟いた。
何が?と、問うために顔をあげると目の前にびっくるが差し出された。
「これ飲んだ後に俺も一緒に買い物、付き合ってやる。」
・・・・・・
うっそん。
先生と?
買い物?
誰が?
ME?
YES ME!
びっくる?
YES びっくる!!
「おい、名前?」
『…うぇい!?』
「どうした?飲まないのか?」
『いいいいいいいただきます!!』
(貰ったびっくるの味がわからなかった)