拍手お礼文第六弾【言葉の真意】






「くっ」


見る見るうちに闇を纏ってゆく空を仰げば、さらに鴉達の数が増えていることに気づく。


辺りが闇に包まれればそこからが本当の彼らの本領。

その黒い容姿は闇に溶け込み、いよいよ逃げることは困難となるだろう。


「どうすれば・・・」


目を細めてその場から抜け出す機をじっと伺う。


「リクオ、様・・?」


突然背後から声をかけられびくっと身体を震わした。


「っ・・・?つらら?」


それは自分が一番の信頼を寄せる側近の姿だった。


「リクオ様、お話は聞いております・・」

「つららも、僕を連れ戻しに来たのか・・・?」

「・・・はい。リクオ様、どうかこのようなことはおやめに・・」

「っ、」


自分が最も信頼を寄せる彼女。

その彼女までもが自分をあの屋敷へ連れ帰ろうとしている。


「お前も、あそこへ連れ戻そうとするんだな。信じていたのに」

「リクオ様!なぜお逃げになるのですか?この縁談はリクオ様にとって決して悪いものではないはず・・っ」

「お前は、何も分かってないんだね」

「へっ?」

「なぜ僕が縁談をこうまでして蹴ったのか。お前は本当に・・・」

「・・・?」


リクオの言う意味が分からず戸惑うつらら。


「よく分かりませんが・・こんなことをしてもリクオ様には何も良い事は・・・、ふぇっ?」


刹那、リクオはつららの身体を抱きしめた。壊れそうなほどにきつく。


「リクオ様・・っ、何を・・?」


何をされたのか分かっていないつららは目をグルグルさせて慌てるばかり。


「つらら、・・・僕はお前がいいんだ」

「・・・ぇ」


その声に普段のからかうような色は微塵も伺えない。

つららはそれが本気だと悟る。


「っ・・しかし・・」

「いや・・・なのか?」

「嫌、というわけでは・・ありませんけど・・」


少し抱きしめる力を緩めて彼女の顔を盗み見れば、仄かに染まった頬が見えた。


「しかしっ・・この縁談は・・」

「つらら、この縁談はどこぞの組との友好のために設けられたものだ。僕の意志など関係なくね」

「・・・」

「そして、僕が元服してからいつまでも跡取りのことを考えないからとじいちゃんが・・。だったら、僕はつららを嫁として娶りたいんだ」


「リクオ様・・っ」


するとつららは目いっぱいに溜めた氷の雫をぽろぽろと零し始めた。

そんなつららを見てリクオは動揺した。


「っ・・そんなに嫌なのか?」

「・・・違いますっ」

「なら、なんで・・」

「違うんです・・・その・・すごく嬉しくて・・・」


涙の意味を解してリクオの強張った顔が緩んでいった。


「じゃあ・・受けてくれるんだね?僕のプロポーズ」

「はい・・私、前から私も・・・リクオ様のことをお慕いしておりました」


”お慕い”

この言葉でまたリクオの顔に影が差すのを見て、つららは慌てて訂正する。


「あ、あのっ!お慕い、というのは・・・好きでしたという意味で・・・」

「・・え・・」







― 昔から、リクオは遠まわしに彼女へアプローチしていた。

しかしそうとう疎いのか、彼女にその真意が伝わることは今まで決してなかった。


そんな状況に歯噛みしたリクオは、一度だけ意を決して好きだと伝えたことがある。

それに対して返って来た言葉は―

”私もお慕いしております”


そんな残酷な一言。

慕う―

それは従者が主に対して抱くそれであり、決してリクオの求めてやまないそれではない。


彼女からすればリクオはいつでも子供のようなものだった。

好きだと言っても、その真意は伝わらない―

最近ではそんな辛さに耐えられなくなり、抱く感情を押し殺すようにしていた。

叶わないなら消えてしまえばいい― こんな感情



それも今の彼女の一言で全てが自分の思い違いだったということを解す。

奥手な彼女にとって、”お慕い”とは”好き”に相当する意味を持つのだと。




「え・・・つらら、それって・・」

「以前にも、お伝えしたではありませんか。”お慕い”していると・・・」

「いや、それは従者として慕っているって意味だと・・・」


すると彼女は頬をポッと染めて俯く。


「いいえ、ずっと・・・それはもうリクオ様が幼き時分より、私は貴方のことが大好きでした」

「つらら・・。でも、お前は僕の縁談に賛成なんだろう?」

「リクオ様さえ良ければ・・・反対する気はございませんでした。でも、本当は・・・とても辛い、ですっ・・」


そう言ってまたポロポロと氷粒を転がす彼女を見て、リクオは今まで曇天のようだった胸中がさっと晴れるのを感じた。

強張るように彼女を抱きしめていた手が、自然なほど優しさを帯びてゆく。


「つらら、僕の・・・嫁になってくれ」


行き場をなくしていた彼女の手がリクオの背に回され、了承の意を示す。



すっかり夜の帳が落ちた街中。

真っ黒に染まった空には闇に紛れた鴉衆が飛び交っていた。







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