book1


□特別
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なんだろう―

とても、胸が苦しい。

ぎゅうっと締め付けられるように、切ないんだ。



「ふふ、ありがとうございます島君」

「い、いやっ、どういたしまして及川さん・・・」



君が他の人に笑顔を向けている。

その笑顔は僕だけの物だと思ってたのに、昔は。

それだけで胸が痛む。


その笑顔はきっと深い意味なんてなく、付き合い上の都合のため見せている笑顔だって。

僕の学生生活を円滑にするためのものだって。

そんなこと、分かっている。

それ以外に他意なんてないって、知っている。

でも、分かってるのに・・・・


痛いんだ。





「どうしました?リクオさ・・・リクオくん?」


気づけば君は僕の顔を心配そうに覗き込んでいる。

その顔はとっても真っ直ぐで。

自分が僕の胸の中をこんなにも掻き乱しているなんて、君はきっと知る由もないだろう。




「いや・・・なんでもないよっ!」


そう言って、僕はまた自分の心を隠す。

それでも、君は心配してくれるんだ。



「でも・・・大丈夫ですか?どこか痛いのですか?」


胸が痛い。

なんて言ったら、きっと君は顔を真っ青にして鴆君のところへ僕を連れて行くんだろうね。

違うのに。

君の笑顔が僕を痛めつける。

なんて言ったら今度は、君は笑わなくなってしまうのかな。


そんなの嫌だ。

太陽のように、いつも笑って僕を癒して欲しいのに。

なんでこんなに・・・辛いんだろう。



「ううん、どこも悪くないから気にしないで」


そう言えば、やっと君は渋々頷いてくれる。

そしてまた他の人へその笑顔を振りまくの?

僕にはそんな心配そうな顔ばっかり見せて。

そして笑顔はなかなか見せてくれないんだ。


分かってる、それは僕がこんな顔ばっかりしてるからだ。

でも、贔屓なくみんなへその眩しい笑顔を振りまく君を見ていると―

いつの間にかまた君が・・・こちらへ心配そうな顔を向けてるんだ。



「さよなら、みなさん」


そう言って、最後まで彼女は笑顔を振りまく。

誰にも贔屓することなく。


そしてこちらを振り向いた君は・・

また心配そうな顔をする。


「リクオ様?今日は・・・一体どうされたのですか?」


またその顔・・・。

僕には見せてくれないの?


「つらら、笑って」

「えっ?」

「いいから笑って?」


すると彼女は・・

みんなに見せていたような、他意のない笑顔を見せてくる。


違うんだ。

それじゃない。

僕だけに見せてよ―

僕だけに向けられる、特別な表情を。


「つらら」

「・・・はい?」


困ったように眉を下げる君。


「―好きだよ」

「・・・ぇ」


その一言で、君はその白い頬に桜を散らす。

あぁ、やっと見せてくれたね。


僕だけに向けられる特別な顔。


俯く君はその桜色の顔で―

恥ずかしそうに、微笑んだ。


みんなに見せるものとは違う、特別な笑顔。


そして僕も―

誰にもしない、特別なことを君にしてあげる。



合わさった唇が、こんなに柔らかくて、こんなに冷たいなんて。


これも僕しか 知らない―


 

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