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□拍手お礼文第二【悩ましい恋心】
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web拍手お礼駄文第2弾【悩ましい恋心】





 


「あー、今日も清継君の妖怪うんちく長かったなぁ」

ンーっと背伸びをしながらそんな声を漏らした。
今日はいつにも増して部活は長引き、夏だというのにもう辺りは薄暗い。

「そうですねぇ。こんなに遅くなるとは思いませんでした」

隣を並んで歩くつららは日の光がもうほとんど無い空を見上げた。

「それにしても、家長のやつ・・・あんなに若に抱きついてキャーキャーと・・・!」

「ん?何か言った?つらら」

「いえ!なんでもありません!」

つい思っていたことが口に出てしまって慌てるつらら。

今日の部活内容は懲りずにまたも旧校舎探索だった。
清継は夜間の探索がいいと言い張ったのだが、リクオが親が怒るからとなんとかこの時間に行かせたのだった。

実際は親が怒るはずもなく、昼間のほうがゴロツキ妖怪の徘徊も少ないと思ってのことだった。

つららは再び先ほどの忌々しい光景を思い出して心の中で悪態をついた。

あの中で一番怖がりの家長は、ことあるごとにリクオにしがみ付いて悲鳴を上げるのだった。
そんなに怖いなら来なければいいのに・・・。つららはそう思いながらその光景を苦々しく眺めていた。

「リクオ様、家長はなぜ清十字団に入ってるのですか?」

「え?あー・・・それがボクにもよく分からないんだ」

「あんなに怖がりなのに、さっぱり意味が分かりません」

多少私情も交じってはいるが、もっともな意見を述べる。

「あれじゃないかな、怖いもの見たさ。つららにもない?そういうの」

「私には怖いものなんてないですから、分かりません」

我ながらよくそんな嘘をつくなぁと思ってしまう。
自分の怖いもの。それは家長のようなオバケとか得体の知れない何かにおびえる類のものではない。

「本当に?」

リクオがいたずらっぽく顔を覗き込んでくる。

「そうですね・・・、私の怖いもの。強いて言うならば、リクオ様のお傍に居られなくなることです」

そう言ってニッコリ微笑む。

「ははっ、なんだそれ」

リクオはそれを笑ってはぐらかした。
話にキリがついて沈黙が訪れたので、つららはまた最近気になることに考えを巡らせた。

最近気になっている事。
それはやっぱり家長のことだった。

端から見れば、どう見ても彼女はリクオのことを意識している。
いくら鈍感なつららでも労せず分かってしまうくらい、挙動の一つ一つがあからさまだからだ。

家長が一人で空回りしてる分には、つららも特に気には留めない。
しかし、最近はリクオもその挙動にいちいち反応するからどうしても気になってしまうのだ。

リクオも今年で12歳になった。一般的に言われる、思春期という時期だ。
生まれたときから傍で成長を見守ってきたつららにとって、リクオのそういった成長は喜ぶべきことだ。

にもかかわらずこのように手放しで喜べない自分に嫌悪感を抱いた。

「はぁ・・・」

つい意識せずため息を漏らしてしまった。

「どうしたのつらら。何か悩みでもあるの?」

心配そうにそう尋ねてくるリクオを見て、自分がひどく落ち込んだ顔をしてしまっていたことに気づく。

「な、なんでもないですよっ」

そう言ってすぐにいつもの笑顔に戻ると笑いかけた。

「そう?ならいいけど・・・」

屋敷に着いたときにはもうすっかり夜の帳が降りていた。







「ふぁ〜あ・・・お風呂入ったら眠くなってきちゃったな」

リクオは湯浴みを済ませ、大きなあくびをしながら廊下を進んでいた。
今晩は廊下の軋む音が煩く感じるほど、屋敷は静まり返っている。

いつもなら夜行性の妖怪たちが小さな宴会を開いて騒いでいる時間である。

「今日は妙に静かだなぁ。たまにはこんな夜も悪くないよね」

などと独り言を呟きながら今にも落ちてきそうな重たい瞼をこする。

すると、どこかの部屋から会話のようなものがかすかに聞こえてきた。
声の感じからして、女性のようだった。

「なんだ・・・?あそこかな」

廊下を進むと、一つだけ光の漏れた部屋があった。

ぎしっ・・・・

廊下の軋む音が煩い。リクオは出来る限り音を出さないように自然と抜き足になって歩を進めた。
その部屋に近づくにつれて、声がはっきりと聞き取れるようになってくる。

「お母さんと・・・つらら?」

声の主がその二人だと分かるとリクオは部屋の近くにしゃがみこみ、会話を聞き取ろうと耳をすませた。








つららは干し終わった洗濯物を畳みながらどこか懐かしがるように話している。

「はい・・・あの頃のリクオ様は本当に可愛らしくて、ふふ」

「そんなこともあったわねぇ」

どうやら二人はリクオの幼い頃の話に花を咲かせているようだった。

「リクオの小さい頃といえば、つららちゃんに予防接種に連れて行ってもらったこともあったわね」

「あ、はい。懐かしいですね!今でもよく覚えていますよ、あの時のリクオ様ったら・・・」

当の本人はほとんど覚えてない、自分の昔話を聞いているとなんだかこっぱずかしくなってくる。
リクオはその場を立ち去ろうと腰を上げた。

「で、あの時つららちゃんをリクオの将来のお嫁さんにしたいって言ったわよね〜」

などと言い出すものだから、リクオはつい驚いてまたしゃがみこんでしまった。

「わ、若菜様っ!そんな話まで覚えてらっしゃるのですかっ」

リクオからは見えないが、つららは頬を染めてワタついている。

「うふふ、当たり前じゃない。結構本気で言ったのよ?あれ」

「ええぇっ!そ、そんな恐れ多い・・・」

「まぁまぁ照れちゃって可愛らしい。でもリクオもつららちゃんがそうなってくれたら嬉しいと思うのよねぇ」

「そ、そんなことはありませんよっ!だってリクオ様は・・・」




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