book1


□妖美な誘惑
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満月の宵。

縁台には二つの影。


「最近はとんと涼しくなったな」

「はい、幾分過ごしやすくなりましたね」

「お前はな」


そう言って苦笑を漏らす。


「あの・・・リクオ様」

「なんだ」

「・・・いえ。なんでもないです」

「・・・?」



妻は徳利を傾けながら言葉を濁した。


「お寒いですか?」

「ああ、ちょっとな」


そう言ってすっと立ち上がる。


「あの、」

「湯浴みだ。すぐ戻る」

「・・・はい」


そう言って俯いた彼女の頬がほのかに赤みを帯びていたことにリクオは気づかなかった。










この時間は浴場が空く時間で誰の姿も無かった。

混んでいる時間だと、体を流すだけで随分待たされるからリクオはいつもこの時間を狙う。


貸切に同義なのでスムーズに事を終え、更衣室へ戻って浴衣を羽織る。

その間、湯でぼうっとする頭で何の気も無く先程のやりとりを考えていた。


「なんつーかな・・なんか今日のつららは変だったような」


会話にも歯切れの悪かった妻に今更ながら違和感を感じる。


「なんかこう・・言いたいことがありそうな・・」


湯浴みで温まり、重たくなってきた目をこすりながら独り言を呟く。


「まぁ、おかしいのはいつもか・・・」


考えるのがめんどくさくなって、適当に解釈した。









自室へ戻ると、すでに布団が敷かれている。

つららはその傍らに座り、なにやらぼうっとしている。


「なんだ、眠いなら先にねてりゃーよかったのに」


すっと音も無く部屋に入ってきたリクオに少し驚くつらら。


「・・・っ、もう、驚かさないでくださいよ」

「・・・俺は普通に入ってきただけだが」

「もう少し音をだしてくださいっ」


ぷくっと頬を膨らませてぬらりひょんの性にケチをつけてくる。


「ぽけーっとしてるほうも悪い」

「だって・・・、」


また彼女は歯切れ悪く言い淀む。


「なんだ?今日はおめぇ、一日中ぼけーっとして」

「し、してませんっ」

「なんか言いたいことあんなら言えよ」

「・・・」


すると、顔を朱に染めて俯いてしまう。

いよいよおかしいと思ったリクオは眉を寄せた。


「おい・・・、」

「・・・」


いつもなら吐くまで問い詰めるのだが、今日はもう瞼が言うことを聞かない。

気をつけていないといつの間にか目を閉じてしまっていた。


「・・・まぁ何もねぇならいいけど。俺ぁもう眠いから寝る」


そう言って布団に潜った。

すると、いつもならここでおやすみなさいと言われて終わるのだが今日は違った。


「り、リクオ様っ・・!」


なんと彼女はそう言うなり布団に潜ってきたのだ。

普段は彼女は自室のほうで寝ている。

結婚したんだから一緒に寝ようと言ったのだが、一緒だとリクオ様が寒いからと言って断られたのだ。



「・・・、なんだよどうした」

「あの・・、リクオ様!」


いつになく顔を染めて必死だ。

これはただ事ではないとリクオはつららのほうへ体を向ける。


「あ、あのっ・・私、リクオ様の子供が欲しいですっ!」


真っ赤な顔をしてそんなことを言い出した。

リクオはつい笑ってしまった。


「くっくっ・・」

「なっ・・・、なんで笑うんですかぁ!」

「真剣な顔して何言い出すかと思えば・・・」

「だって・・これ結構、真剣なことじゃないですか?」


そう言う彼女の顔面は今にも爆発しそうな程に赤い。


「あの・・・、ダメでしょうか?」

「でもなぁ・・・俺今日眠いんだが。明日じゃだめか?」


そう言うと、彼女はますます真剣な顔になって言い寄ってきた。


「だ、だめです!」

「なんでだ?」

「そ、それはその・・、今日は授かりやすい日、なので・・」


もごもごと語気が弱くなっていった。


「くくくっ・・」

「だからなんで笑うんですかっ!」

「わりぃわりぃ。じゃあこうするか、俺をその気にさせられたらやってやる」

「!」


その瞬間、つららの目の色が変わるのをリクオは見逃さなかった。


「分かりました!」

「え、ちょ・・おい」


半分冗談で言ったので、つららのやる気っぷりに驚く。


「では・・・失礼しますね」


彼女は先程までの恥じらいのようなものが消え、明らかに様子が違う。

つららは動揺するリクオも気にせずに顔を近づけると、ねっとりと深い口吸いをした。


「・・・っ」

「ん・・」


口が離れると、その間にはつーっと銀色の糸が一筋。

つららの目はとろんと潤み、その口は弧を描いて薄く微笑を漏らしている。

その様子はひどく妖艶で、リクオの男の性を激しく揺さぶった。

彼女が一端の雪女であるということを改めて思い知らされる。

無意識に彼女から漏れ出る雪女特有の見えない何か。


「リクオ様ぁ・・私、あなたのお子が欲しいんです」


そんな艶かしい顔を近づけながらそんなことを言われれば、先程まで鉛のように重かった瞼が嘘のように軽くなっているのに気づく。

それどころか、徐々に己の中心が熱を帯びてきていることに気づかずにはいられなかった。


「っ・・・!お前・・、」


突然何の前触れも無くつららが自身の徐々に熱を持ち始めた部分に触れてきて、リクオは思わず腰を引いた。


「あら、お逃げにならないでくださいよ」


そう言って口角を上げたつららを見て、リクオは自身が十分やる気になっていることがばれたと悟る。


「やるじゃねぇか・・つらら」

「私、雪女ですよ?その気にさせるとか、そういうのは得意分野です」


微笑を絶やさずに体を寄せてくる。

そしてリクオが逃げ出せないように上に乗ると首筋に唇を沿わせる。


熱を持った体に彼女の冷たい体が気持ち良い。

首筋にかかる吐息は冷気であるはずなのに少し生ぬるい。

耳元には悩ましい声音が直に届き、リクオは理性が飛びそうなのを必死に抑える。

実際、つららのほうから誘惑されているのだから抑える必要はないのだろうが、なんとなく負けたくない気がした。


彼女はその冷たい舌をつーっとリクオの首筋に這わせる。


「・・・っ」

「そんなに我慢しなくても・・リクオ様もうその気に、なっているでしょう?」


そう言って、逃げ場を失った下半身を優しく撫でてくる。


この期に及んでシラを切るのは不可能だ。

リクオはにやりと口角をあげてその艶っぽい瞳を見返した。


「け、バレちゃあ仕方ねぇな」

「じゃあ約束です。私に・・授けてください。・・ぁっ」


もうどうにでもなれと、襦袢の上から彼女の柔らかな胸を揉み解す。

すると今までの薄い微笑を浮かべた表情が一変して悩ましげなものになる。


「これでいいんだろ?」

「はぁ・・・やっとその気になってくれたのですね」

「こんなんなっちゃぁ寝れるわけねぇだろ」


未だつららの冷たい手に掴まれたままの下半身を軽く揺する。


「どうですか?私も・・やるものでしょう?」

「ああ・・甘く見てた」

「ふふっ」


少し余裕を見せたので襦袢の襟元を開いて胸を露出させる。

そして手を滑らせるとふくらみの頂を適度に摘んでやった。


「・・ぁっ、ぁぁ・・・」

「もうお前の好き勝手にはさせねぇぞ」

「んっ・・ぁ・・、リクオ様が、その気にさせろって言ったからですよぉ」


つららの言うとおりであり、さらに彼女の思う壺になったリクオは返す言葉もない。


「じゃあ次は俺の本気を見せてやろう」


にやりと微笑すると、もう固く尖った頂にちゅうと音をたてて吸いつく。

甘い嬌声が漏れた。

強弱をつけてやれば、それに合わせて悩ましい声をあげるつらら。


すっと帯を抜くと、襦袢を全開に開く。

その瞬間、襦袢で幾分か抑えられていた冷気が一気に広がる。


「涼しいなこりゃぁ」

「リクオ様こそっ・・すごく熱いです」



頂を吸い上げつつ、甘噛みをする。

それと同時に空いた手を胸、腹、と南下させていく。


薄い茂みをかきわけると”ぬちゃり”と卑猥な音が鳴った。


「ぁっ・・ゃ・・、っ」

「準備万端じゃねぇか」

「・・随分、前からです」


つららは頬を紅く染めて呟いた。


「・・・」


今日のつららは珍しく積極的で驚きっぱなしだ。

授かりやすい日の女ってのはこうも積極的になるもんなんだな・・・ と関心してしまう。



ほとんど摩擦を感じないほどにぬめったそこを緩急をつけて往復する。

擦れるたびに漏れる嬌声が部屋に響いた。


寝静まっているとはいえ、ここは何百もの妖怪が共住する屋敷だ。

あまり大きな声で騒げば誰かしらの耳には届くだろう。

そして明日には耳を塞ぎたくなるような噂が飛び交っているに違いない。


「おいおい、そんな大きな声で鳴いたら・・・明日屋敷を自由に歩き回れなくなるぜ?」

「ぁんっ、・・だって・・・出ちゃうんですっ・・・ょ」


必死に声を抑えようと口に手を当てるつららに口角を上げる。

指を往復させている溝の上端に突き出たその突起を軽くはじく。


「・・・ぁっ!」

「知ってるぜ、つららは・・ここが好きなんだよな?」

「はいっ、・・ぁぁ・・・だめっ・・声が・・・ぁぁんっ!」


口に当てていた手を放り出す。

その口からはだらしなく涎を垂らし、甘い声を漏らしている。


一方、下の口も粘りのある涎をとめどなく流し、布団のシーツに卑猥なシミを作っていた。

溝の周りをその潤滑油でなぞる。

すくっても、すくってもキリなくあふれる潤滑油。


「下の口の涎で、俺の布団がおねしょだ。どうしてくれんだ?」

「ぇっ・・すいませっ・・んぁ・・っ」


吸い付いていた頂から顔を上げる。

そのまま涎だらけのだらしない口へ噛み付いた。


舌を差し出すと、ねっとりした絡みで応戦してくる。

歯列に沿ってなぞってやれば口の隙間から吐息が漏れた。

薄目を開けて盗み見れば、艶かしいその顔に余計興奮を覚える。



下でずっと突起をいじくり回していた指を溝へ滑らせた。

そのまま溝深くその指を埋める。

くちゅ・・・と言う淫猥な音と共に抵抗なく飲み込まれていく指。


「んっ・・・」

入り口を浅く出入りさせると、つららはじれったそうに腰を揺すった。


出入りを繰り返しながらたまにどさくさに紛れて突起をはじいてやる。

するとその度に敏感にも腰が跳ねる。

それが彼女の限界が近いことを物語っていた。


「なんだ?もうイきそうなのか」

「っ・・はい・・」

「まだ指だけなのに、今日はずいぶん敏感なんだな・・ココは」


そう言ってまた突起をはじく。


「ぁんっ、だってぇ・・」

「ま、たまにはそういうお前もいいな・・」

「もうっ・・でもリクオ様だって、・・もうそろそろではないんですかっ・・?」


つららはそう言ってまた下半身をなぞってきた。


「・・っ!おい・・やめろ」


不覚にもその艶かしい手つきで達しそうになる。


「あら・・ごめんなさい」


そう言ってくすくすと笑う彼女。


「けっ、随分余裕じゃねぇか」

「ぁ・・・っ!」


その余裕を吹き飛ばしてやりたくて、何も言わずに一気に挿れた。


「・・・ぁあっ!そんな突然・・っ」

「くくっ、さっきの余裕はどうした?・・・っ」


そうは言ってみたものの、思っていたより自分も限界が近かいようだった。

先に達しないようにと必死に歯を食いしばる。

つららを乱れ狂わせてやりたいのと、これ以上は自分がもたないという胸中の葛藤。

それでも一心不乱にピストン運動を繰り返した。


ほの暗い部屋に甘い嬌声と、卑猥な水音が絶え間なく響き渡る。

これは絶対明日下品な噂が飛び交ってるだろうなと苦笑する。


「な、なんでっ・・・笑ってるんですかっ・・」


つららは情交の最中にリクオは笑い始めたことに少し顔を膨らした。


「わりぃ・・・っ」


だがそんな微笑もすぐに苦悶の顔に変わる。


「んっ・・リクオ様っ、もう・・私・・」

「ああ。・・・授かれるといいな」

「・・・はい、っぁぁ・・・・一緒に・・」

「分かってる・・くっ」

「ぁぁぁ・・・っ!」


ひときわ大きな嬌声の後、リクオにまわされたつららの手に力が入る。

つららの身体がぶるっと震えた。

それと同時にリクオの身体にも閃光のようなものが走る。

刹那、つららの中へ熱い欲望が迸った。


「くっ・・・つららっ!」

「ぃくっ・・リクオ様っ・・・ぁぁあ!」



咆哮のような叫びの後、つららはくたりと崩れ落ちた。






乱れた息を整えながらリクオはつららの少し熱を持った身体を抱き寄せる。


「はぁ・・リクオ様・・ありがとうございます」

「何礼なんて言ってんだよ」

「だって・・・私のわがままに付き合わせてしまって」

「その気になった俺も俺だ」


つららの妖艶な誘惑にあっさり落ちたことを思い出して顔をしかめる。

それを見てくすくす笑うつらら。


「なーに笑ってんだ」

「だって・・その、あんなに簡単にその気になってもらえると思ってなくて」


つららのその言葉にますます屈辱感に似たものがこみ上げてくる。


「っ、しかたねぇだろ。雪女の”得意分野”だしな」

「ふふっ、まだ・・そんなに本気出してなかったんですよ?」

「何・・・」


あれ以上本気出されたらこっちがもたない。

彼女の本気を垣間見たときには、おそらく本番が始まる前に果てるだろう。

そう思って心の中で身震いする。


「じゃあ次は・・本気だしましょうか?」


そう言ってまた妖艶なあの表情にさっと変わる。

それを見てリクオは反射的に後ずさった。


「おいおい・・・シャレにならねぇ」

「そういわずに・・さぁ」


微笑を浮かべて高揚した顔を近づけてくる。

―今宵は彼女に勝てそうにない。


そう悟ったリクオであった。








 

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