book1
□祝いの会
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先月、僕らは晴れて結婚。
組のみんなも祝ってくれて、祝福されながらボクらは夫婦となった。
あれから早くも一ヶ月。
幸せいっぱいの僕達の元へある手紙が届いた。
”奴良君、旧姓及川君。この度はご結婚おめでとう。
最近はどうだい、うまくやっているかい?
早速だが、本題に入ろうと思う。
今回手紙を送ったのは連絡したいことがあったからだ。
聞いて驚くんじゃないぞ。
実は二人の結婚を祝って、清十字団みんなでお祝い会をやろうということになった。
まぁそんな大層なものじゃない。中学の部活うちでやるちょっとした打つ上げみたいなものだと思ってくれればいい。
日取りは全員の都合が合う日にしようと思う。
だから君達の都合のいい日を折り返し連絡してくれたまえ。
では連絡待ってるぞ。
清継”
「だって。どうする?」
「あら、いいじゃないですか!」
「うん、僕たちのためにそんなことしてくれるなんてすごく嬉しいよね」
「清継君ってなんだかんだでいい人ですよねっ」
「なんだかんだでって・・・」
相変わらず悪気も皮肉も皆無で無意識にちょっと棘のあることを言う。
そんな変わらない彼女に苦笑してしまう。
「いつにしましょうか?」
「次の土日は暇じゃなかった?緊急総会でも入らない限り」
「そうですね!では次の土日のどちらかにあわせてもらいましょう!」
懐かしい面々に久しぶりに会えると思うとやっぱり嬉しい。
僕らは今年で二十歳になり、中学卒業してからはほとんど会っていない。
でもなんだかんだで楽しい部活だった。
でも幼馴染のあの子にはたまに近所で今も会う。
その度につららが不機嫌になるから控えてるけど。
そんな昔の楽しかった思い出を思い出しながらペンを走らせた。
都合の取れる日にちを記し、残りの余白には近状報告を書いておく。
三日後、再度彼からの手紙が届いた。
「リクオ様、清継君から手紙届いてますよ」
「はやっ!どれどれ」
妻の手からそれを受け取って封を切る。
それをさっと読み、顔を上げた。
「うん、来週の日曜でみんないいみたいだよ」
「都合が合って良かったですね!」
つららはどんな服を着ていこうかなど、早くもうきうきしている。
予定の日―
清継くんに指定された料亭に着くと、すでに他のみんなは集まっていた。
「ごめんみんな!遅くなっちゃって・・・」
「みんなこんばんわぁ」
二人で声をかけると、みんなこちらをふっと向いて手を振った。
その中でもひときわ大きな声を出したのは清継君だった。
「おうい、遅いぞ二人とも!主役が遅れてどうするんだい!」
「ごめんごめん、渋滞に巻き込まれて・・・」
「あら、主役って遅れて登場するものなんですよ?」
悪びれもなくつららが言い返す。
その向こうからは他のメンバーも駆け寄ってきた。
「久しぶりだなー奴良!・・・とつららちゃん」
島君はなんともいえない変な顔をしている。
「どうしたの?島君そんな顔して・・・」
「な、なんでもない!」
「どけ島!おー奴良久しぶりじゃん!なんかイケメンになった?」
巻が島を突き飛ばしながら言った。
「え?そ、そうかな・・あはは」
返答に困って曖昧にしていると、足に激痛が走った。
嫌な予感がして見れば、案の定つららが睨んでいる。
「つらら、落ち着いて・・あ、カナちゃん」
「久しぶり。いいわねー仲良くて」
カナちゃんに至っては、昔に比べてちょっとクールになった気がする。
いや、前からこんなんだったか?
たまに会うけどそんな風には感じなかった。
「奴良君?」
「あ、花開院さん」
昔は彼女とも色々あったけど、今ではそれもいい思い出だったと思える。
「結婚おめでとう。たまには京都くればええのに」
「はは・・・勘弁してよ、滅されるでしょ」
「ていうかこんな入り口で話してないでさっさと中に入ろうじゃないか!」
「誰だよ一番に駆けていったの!」
そんな清継と巻のやりとりもすごくなつかしい。
また中学に戻ったような気がした。
「でだ、どうなんだい新婚生活ってやつは」
座敷に座ると清継が早速しゃべりだした。
「すごく幸せかな。ね、つらら?」
「ええ、もう毎日が楽しいですっ」
そう言って所かまわず腕に絡み付いてくる。
「おいおい、見せ付けてくれるじゃあないか」
「え、いや見せ付けてるつもりじゃぁ・・」
島君はおかしな顔してるし、カナちゃんに至ってはなんだか渋い顔をしている。
二人はさっきから一体どうしたんだろうか。
「オホホ・・・」
「ちょ、つらら・・?」
なんだかものすごく気恥ずかしくなってきた。
そこで話をそらすことにする。
「で、それよりもみんなはどうなの?最近!」
手紙にも書かれていたが清継君は大学に通っているらしい。
しかも学部はなんだか怪しげな名前の・・・・。
日本の文化や伝承を研究するらしい。
カナちゃんもたまに会って近状を話してくれるから知っている。
今は専門学校に通ってる。
なんでも、お菓子作りに関する専門学校らしい。パティシエとは違うらしいけど。
島君もTVでも見たから今何をしてるかは知っていた。
プロのサッカー選手らしいけど、サッカーはあまり詳しくないのでよく分からない。
花開院さんは勿論本家を継いで今修行中だそうだ。
いつか滅されるのではないかと今でも思ってる。
巻さんと鳥居さんは二人そろってデザイナーの仕事をしているらしい。
そして僕は・・・妖怪任侠一家の三代目総大将。
仕事は何してるのって聞かれて、そんなこと言えるわけがない。
僕は適当に濁して逃げる。
そんな近状報告を交し合っていると、料理が運ばれてきた。
すると誰よりも早くつららが慣れた風に動くので、皆から歓声が沸いた。
僕にすれば昔からあの屋敷で働いてるのを見慣れてるから何も思わなかったが、みんなからすれば目を見張るほどらしい。
「なんだかすっかり奥方ってかんじだねー及川くん・・・じゃなくて、なんていえばいいんだ?」
「つらら、でいいですよ」
そう返すのを聞いて、少し僕はむっとした。
自分以外の人に下の名前で呼ばれるのを見るのはなんとなく嫌だった。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は僕のほうをちらりと見てきた。
そして僕は理解した。
これは先程までの嫉妬の仕返しだと。
しかし自分にも多少の落ち度はあるので何も言えずに我慢するしかなかった。
つららはてきぱきと皆に皿や醤油を配り、あっという間に場を整えた。
「ほんと、奥様ってかんじだよねー」
巻さんはうんうんと感心している。
皆にそんなふうに関心されると、僕もそんなに悪い気はしない。
「よーし!じゃあ乾杯といこうじゃないか!奴良くんとつらら君の結婚を祝って、乾杯!」
かんぱーいと言う声と、コップ同士がぶつかる音が響いた。
先程のやきもちもあり、僕は自分でも無意識にすねた顔をしていたらしい。
それを見た隣に座るつららは苦笑して、
「はい、リクオ君。あーん」
「えっ?ちょ・・」
否応なしに口へ料理が突っ込まれる。
それと同時に皆が冷やかしの声を上げた。
「つらら?」
彼女は焦る僕にそっと囁いた。
「もう、拗ねないでください。ちょっとお返し、させてもらっただけですよ」
そう言っていたずらっぽく笑うとまた”あーん”と突っ込んできた。
本家の宴に負けず劣らずの飲めや歌えっぷり。
お祝い会も終盤になると、すっかり酔いの回った清継くんがとんでもないことを言い出した。
「さーて、宴ももう少しだ。ここで!一つ提案がある!」
嫌な予感はした。
中学の時だって、毎日のように突拍子のないことを言って皆を驚かせたものだったから。
「奴良君、君・・・結婚式に僕らを呼ばなかったね!?」
「えっ・・・いや、結婚式は身内だけでひっそりやったから・・・」
実際、祝言は組の者だけでやった。
みんなを呼びたくなかったわけじゃない。
呼べないからだ。・・・あんなカオスな空間に人間など呼べるはずがない。
「ひっそりって君、葬式じゃあないんだから―」
僕が口ごもっていると、清継くんは話を進めた。
「そのおかげで、君達のアレを見ていない!そうだよなみんな!」
「アレって何・・?」
なんとなく予想がついたけどあえて聞き返す。
どうか予感的中じゃありませんようにと祈って。
「何って・・・奴良君、決まってるじゃあないか!口付けだよ、口付け!」
予感は的中だった。
「ま、待ってよ!式は和式だったからそういうのはなかったよ!」
これは事実だった。
誓いの口付けをするのは洋式の結婚式だ。
「き、清継くん・・僕トイレいってきていいかな?」
「わ、私もちょっとお腹の調子が・・・」
島君とカナちゃんがすごいタイミングで離脱宣言をした。
「君達は馬鹿か!せめて見てからいきたまえ!」
そしてその一言で一蹴されるのだった。
「そ、そんなの・・困るよ!ねぇ、つら・・・」
つららに助けを求めて振り返ると、その彼女は真っ赤に顔を染めてこちらを見つめている。
やばい。
そう思った。
あの顔は決して羞恥からくるものではない。
完全に酔いに乗っ取られている。
「リクオ様ぁ〜〜」
「待っ・・・―」
その酔っ払いは僕の待ったにも耳を貸さず、あっという間に僕の唇に食いついたのだった。
「リクオ様ぁ・・・大好き・・・ですぅ」
それだけ言うと、つららはくたりと倒れた。
その後に聞こえたのは彼女の安らかな寝息と、清継くんの歓声と、なぜか知らないけど島君とカナちゃんの叫びだった。
結局ぐだぐだに終わったお祝い会だったが、なんだかんだであの頃に戻ったようで楽しかった。
あの後、二次会しようと清継に誘われたが帰りが遅いと家の人達が心配するからと言って断ってきた。
・・・あれでもかなり抑えてた。でもあれ以上は抑えておけそうになかった。
昼の俺を押しやろうとする、夜の血を。
「・・・幸せな顔しやがって」
酔いつぶれたつららは俺の背中でとても気持ちよさそうに眠っていた。