book1


□色褪せない思い出
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「リクオ様!アイスですよ!」

「リクオ様!こちらの扇風機のほうが涼しいですよ!」

「いいや、拙僧の怖〜い話の方が涼しくなりますぞ!」

「若、オイラと水遊びしましょう!」

猛暑の昼下がりのこと。

あまりの暑さにぐずり始めた幼き若頭を誰があやせるか。
そんな不毛な戦いが繰り広げられる屋敷の一室のこと。

だがそんな側近一同の苦労もむなしく一向に機嫌が治らないリクオ。

「お前はアホか黒!怖い話なんてしたら余計泣いてしまわれるだろうが!」

「何を言う青。暑い夏といえば怖い話で涼むのが定番だろう」

「あーもうやめなさいよあんたたち暑苦しい。やっぱあれね、つららがいないと・・・」

その時、すっと障子が開いてその本人が現れた。

「ただいま〜・・・って、リクオ様どうされたのですか!」

顔をぐしゃぐしゃにして泣いているリクオを見て、急いで駆け寄った。

「よしよし・・・もう大丈夫ですから泣き止んでくださいリクオ様」

手慣れた様子で抱き上げると、静かに揺らしてあやし始めた。
すると、今までの不機嫌が嘘のように無邪気な笑い声が部屋に響いた。

「はいはい、こんなに汗でびしょびしょになって・・」


今まで奮闘していた一同は呆然と見詰めるばかりである。

「はぁ〜・・やっぱりつららにはかなわないわ」

「・・・?ところでみんな何やってたの?」

「暑いってぐずりだして止まらなかったのよ。いいわね〜つららは、冷たいから」

見れば、リクオは気持ちよさそうにひんやりとしたつららの身体にくっついている。

「あ〜・・暑かったのですね!それならこの雪女にお任せください!特大のカキ氷を作って差し上げます!」

そう言うと、つららは一瞬にして巨大なカキ氷を作り出した。
その大きさは2歳そこらの幼子が食べるには大きすぎる。

「ていうか、あんたどこいってたのよ?突然飛び出していって・・・」

「ふふ、これ買いに行ってたの。そろそろ必要になると思って」

部屋の入り口に置き去りにしてきた買い物袋から色とりどりのシロップを取り出した。

「あんた、未来を見通す力でもあるの?」

「よかった、グッドタイミングだったわね!さぁリクオ様、どの色がよいですか?」

すると、幼いリクオは真っ赤なイチゴのシロップを持ってつららに差し出した。

「イチゴですね!私もイチゴ好きなんですよ〜!」

つららはニコニコと笑いながら巨大カキ氷にたっぷりとかけた。

「はい、召し上がれ。雪女特製の特大カキ氷ですから絶品ですよ」

リクオのその小さな口に巨大なカキ氷を次々と運ぶつららを一同は見入るしかなかった。

「おいおい雪女・・そんなに食わせたら若、腹壊すんじゃあ・・」

「ほえ〜・・いいなぁオイラも食べたい」



「あら、もうこんな時間。リクオ様、そろそろお昼寝のお時間ですよ」

カキ氷を食べ終わったリクオの口の周りを優しく拭くと、つららはリクオを抱き上げて立ち上がった。

「じゃあみんな、私ちょっとリクオ様をお昼寝させてくるわね」

「はいはい、いってらっしゃい〜」

「ぐっ・・・我々は結局何もできなかったな」

「ふん、オレは黒よりはいい線いってたぜ」

「何を!」

「はいはい、もうやめなさいってば。余計暑苦しいのよあんたたちが揃っていると!」









寝室に着くとつららは抱いたリクオを布団に寝かせ、その傍らに寄り添って子守唄を歌った。

「ね〜んね〜んころ〜りよ〜」

「・・・すぅ」

「あら、今日は寝るがお早いですね」

「ゆきおんな・・・だいすき・・」

「えっ?」

まだ起きていたのかと顔を見れば、確かに気持ちよさそうに眠っている。

「寝言でしょうか・・・?」

寝言ではあるが、その囁きに少し照れたように笑う。

「ふふっ・・私も大好き、ですよ」

そう言って母のような優しい笑顔で囁くと、自分もまどろみの世界へ身をゆだねた。




つららにとって少し昔の、しかし昨日のことのように鮮明なある夏のささやかな思い出。


 

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