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□演劇騒動
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それは清継のほんの思いつきで始まった。

「そうだ。今度の文化祭の出し物として、我が清十字怪奇探偵団は劇をやろうと思う!」

つい数分前。
普段なら今日は部活の無い日である。
しかし突然清継が大事な発表があるというから集まってみれば、そんなことを言い出したのだった。

「げ、劇っすか・・・」

「はぁ?この部活と劇かんけーないじゃん」

早速巻が食いかかる。

「甘いな巻くん。関係大有りさ。だってその劇の台本が・・・・妖怪の話なのだから!」

そう言って綺麗に製本された台本らしき冊子を掲げた。
表紙には(監修 清継)とこれ見よがしに書かれている。
そしてでかでかと「麗しき妖怪の主」とタイトルが添えられているのだった。

「ど・・どういう話なのそれ?清継くん」

大体想像はつくが、一応聞いてみる。

「よくぞ聞いてくれた奴良くん!説明しよう!」

そして事細かに細部まで劇の内容を説明し始めた。

内容は一言でまとめると、妖怪の主が人間を助けて友達になる話。

「い、いい話じゃない・・・それ」

そんなことを言い出したのは家長だった。
見れば、何故か知らないが心なしか顔が赤い。

「え・・・カ、カナちゃん?」

そして何故か突然背筋が寒くなって後ろを見ればつららが立っている。
こちらは心なしか、顔が怖い気がした。

「つらら・・?どうしたのそんな顔して」

「何がですか?私別に普通ですけど」

そう言って微笑んでくるが、なんとなく本心で笑っていないような気がする。

「そういうわけだ!劇はこの台本に沿ってやってくれたまえ!」

「ちょっとまちぃ!」

「なんだいゆらくん?」

「その話おかしいわ」

「なっ・・・!僕が考えたこの台本のどこがおかしいっていうんだい!」

「だってそれ、陰陽師でてきてへんやん。絶対おかしい」

「い、いや、これは麗しい妖怪の主と人間の友情の話であって・・・」

「あかん!うちは陰陽師役やるで!」

とうとう二人は言い合いを始めてしまった。

「やれやれ・・・ん?」

見れば、つららと家長が無言で火花を散らせている。
一体何があったんだろうか。

「ちょっと・・・つらら、カナちゃん、一体どうし・・」

「・・・本気で言ってるの?家長さん?」

「当たり前じゃない、人間役は私がやりたいの」

「あーら、いつも妖怪見て怖がっているあなたにそんな大役が務まるかしら?」


こちらはバチバチと音が聞こえてきそうなほどにらみ合っている。
間に割って入るのが戸惑われるほど険悪な雰囲気だ。

「ちょっとつらら・・・やめなって」

さりげなく袖をひっぱって止めようと試みる。

「リクオくんはだまっててください」

しかしどう見ても薄っぺらいその笑顔で微笑み、また不毛な言い合いを始めてしまうのだった。
もはや話し合いなどではなく、各々が自分の希望を主張して収拾がつかなくなっている。

巻と鳥居にいたっては、くだらねーなどと言いながら帰る準備まで始めている始末だ。
一人行き場のない島といえば、何故かつららの方を見ながらぼーっとしている。

「ちょっとちょっとみんな!これじゃあ先に進まないよ!せめて主と人間の役だけでも決めないと・・・」

「う・・奴良くんの言うとおりだな。仕方ない、ひとまず主&人間役を決めてしまおうじゃないか!」

そこでゆらが陰陽師も人間やー!などと喚き散らしたが、先に進まないので聞かなかったことにする。




しかし予想通り、誰がどの役をやるかでまたもめ始めた。

「何言ってんだい家長くん!僕が人間役に決まってるじゃないか!」

「いやよ、私がやる!」

「ふ、二人とも・・」

「奴良くんは黙っててくれたまえ!」

こんな調子で埒があかない。

外を見ればわずかに赤く染まり、カラスの鳴き声が日没を知らせていた。

「はぁ・・私達はなんでもいいからさぁ〜さっさと決めろよ。そして早く帰らせろ」

巻と鳥居は完全に私事に励みながらそう呟いている。

「リクオ様、今日は夕食当番ではないですが・・・そろそろ薄暗くなってきましたし」

カナとのつばぜり合いにすっかり疲れた様子のつららまでぼやいている。

「じゃ、じゃあさ、いつものアレで決めない?妖怪ポーカー」

「お、いいねぇ!ナイスアイデアだ奴良くん!」





「な・・・・なぜだ・・・・納豆こぞ・・・う・・がくっ」

「ははは・・・」

「うわー・・やっぱり奴良つえーなぁ・・」

「ご、ごめん・・」

なぜかいつもこのゲームをやれば自分は一番だった。
つららは妖怪のカードですら率いてしまうんですねーなどといってるが・・・。

「さすがリクオ様です・・!」

「・・・君だろ、君」

「仕方ない・・・じゃあ奴良君、好きな役を選びたまえ!」

「んー・・じゃあ・・・」

その時、ただならぬ視線を感じて振り向いてみれば、つららがじっと懇願するような目で見ている。
これは間違いなく妖怪の主をやれというアイコンタクトだ・・。

「じゃ、じゃあボク妖怪の主やるよ!」


そうして勝った順に次々と役が決まっていった。
ボクが妖怪の主、つららが人間、その他が様々な悪役妖怪・・・

そう、これで平和に終わるはずだった。
しかし、事はそう順調に進まないものだ。

「まちぃ!」

予想通りの声が上がった。

「なんだいゆらくん!正々堂々とゲームで決めたんだから文句はなしだぞ!」

「ちゃうわぁ!うちは妖怪なんてやりたない、陰陽師やるゆうてるやろ!」

「君もわからないねぇ、陰陽師はこの話にはでてこな・・・」

「うるさいわ!うちは陰陽師やるで!」

また先程の続きが始まってしまう。

その日はさすがに外も暗くなってきたということでお開きになったが、毎日部活のたびにその言い合いが繰り広げられた。
さらには、「この台本退屈」という理由で巻と鳥居が台本の改変を始めてしまうのだからもうどうしようもない。




文化祭当日。
結局全員の意見がまとまらず、台本も未完成のまま本番を迎えてしまった。

ボクは妖怪の主の役のため、大体の立ち回りは決まっている。
だから一応劇の練習はしておいたのだが・・・

「おいゆらくん!まさか君、本当に本番で陰陽師なんてやるんじゃ・・・」

「あったりまえやろ!妖怪だけおってそれを退治する陰陽師おらんなんておかしいわ」

そう言って、もう台本をぶち壊す気満々でいる。

「はぁ・・・」

「リクオ様、楽しみですね!」

「ボクはこれで大丈夫か不安だよ」

「こうなればアドリブでなんとかしましょうリクオ様!」

つららは意外とやる気満々な様子で張り切っている。

「まぁ、陰陽師やるって言ってる時点でそうなるよねぇ・・」






舞台裏でそんなことを話していれば、自分達の出番だという放送が流れた。

「くっ、こうなればやけだ!行くぞみんな!」

「へ〜い」

なんだか怪しげな妖怪の着ぐるみを着た巻と鳥居がけだるそうに返事をした。
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