book1
□ゆめうつつ
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「ふぅ・・・たまには一人酒ってのも悪くないな」
舞い散る桜吹雪を眺めながら縁台で一人酒を啜る姿があった。
その背中には哀愁すら感じられる。
今日は奴良組の大規模な行事があった。
そのため側近のつららは一日中屋敷を駆け回り、先程やっと仕事を終えて宴の席から立ったと思ったら自室に戻ってコロっと眠りについてしまった。
「今日ばっかりは仕方ねぇな」
一杯、また一杯と盃に酒を注ぐ。
まだ続いている宴に混じっても良かったのだが、明日は学校があるからと早くに引き上げてきたのだった。
「リクオさまぁ・・・」
横から気の抜けたような声がして見ると、そこには寝ぼけ眼のつららが立っていた。
「どうしたつらら。まだ夜中だぜ」
目は虚ろで、どこを見ているのか焦点があっていない。
トイレにでも起きたのが、普段の習慣のためかそのままここへ来てしまったのだろう。
「何をおっしゃっているのですか・・・お酌なら呼んで下さればいいのに・・」
そう気の抜けた声で言いながらそろりそろり・・・と歩いてくる。
「あ?酌?んなもんいいから今日はゆっくり休んでろ」
そう言って手で下がれと合図する。
「そんなつれないこと言わないでください・・」
合図も無視し、主の隣に腰を下ろすと体を寄せてくる。
「お、おい・・・ねぼけてんのか?」
動揺を隠すためにとぼけてみるが、自分の心の臓が少しずつ煩くなっていくのに気づく。
「ねぼけ・・・?私には何をおっしゃっているのか分かりません」
そう言ってさらに体を押し付けて密着してくる。
「まてまて・・・落ち着け。早まるな」
「落ち着いてますよ・・リクオ様にくっついているとすごく落ち着きます。それに・・・落ち着いてないのはリクオ様の方ではないのですか?」
ひんやりと冷たい指先を露出した胸元につつーと沿わせてくる。
「め、目を覚ませつらら」
「ほーら、ここがこんなに煩い・・。落ち着いてくださいリクオ様」
肌蹴させた胸元に顔をつけて音を聞いている。
「おい、冗談でやってるならよせ」
だんだんと自分の体が熱を持ってくるのが分かる。
それでもそんな言葉には耳も向けずに胡坐をかいた足の上へ乗ってくるつらら。
「リクオ様・・・」
熱を持ったリクオの頬へそっと手を当てて顔を近づけてくる。
それを見てリクオは肩を押し返そうとする。
「お前・・・口吸いする気か?やめろ・・・オレを殺す気・・」
そんな抵抗もむなしく、ちゅ・・という音に言葉は遮られた。
口の中に広がる零度の空気。それがだんだんと喉へと進行すると恐怖を感じた。
「ん・・・!」
身の危険を感じ、リクオは無理やりその華奢な体を押し離す。
「はぁ・・・はぁっ・・・」
「リクオ様・・?」
「何をしやがる・・つらら、お前自分が何をしてるのか分かってるのか?」
「・・・?分かっておりますよ、愛しい主へご奉仕を・・」
そう言ってつららは首筋に顔を埋めてくると、冷たい舌を使って舐めてくる。
「くっ・・・」
ひんやりとする舌が気持ちいい半面、体はさらに熱を上げていく。
「やめろ・・・あんまりふざけてると、後悔することになるぜ・・?」
「・・ふざけてなんかおりませんよ?」
そんな言葉とは裏腹に、半目に開いた黄金色の瞳はとても虚ろで月の光を映して静かに揺れている。
それを見ていると、まるで明鏡止水だな・・などと見とれてしまう自分がいた。
冷ややかなその指がつっと動揺している自分の唇を撫でる。ぞっと背筋が凍る感じを覚えた。
瞳は虚ろなのにどこか冷たく、普段の快活なつららからは想像できない妖艶な空気を醸し出している。
どう見ても正気ではない。
そんなつららに危険を感じたリクオは、自分の胡坐に乗り上がったつららを降ろすとすっと立ち上がった。
「リクオ様・・待ってください」
つららも立ち上がり、背中に手をまわしてくる。
「冷静になれ・・・お前はちょっと疲れてるんだ。・・・くっ」
冷たい舌で胸板を舐められれば、必死に押し留めている理性が吹き飛びそうになる。
「リクオ様も、お疲れでしょう・・・私が癒して差し上げます」
そう言って胸板を押されると部屋のほうへよろめいてしまった。
「おっと・・・まてまて、これ以上はオレだっておさえられな・・・」
後ずさると、背中に壁が当たった。
「おいおいシャレにならん・・」
「抑えなくていいんですよリクオ様・・・?」
見上げてくるその顔は今まで見たことないほど妖艶で、男を魅了する雪女特有のものであった。
さらにはその螺旋の瞳を潤ませ、上目がちにそんなことを言われれば魑魅魍魎の主であれど無反応とはいかない。
徐々に熱を持ってきた自身の中心に戸惑い、つららに感づかれないように腰を引く。
その気になれば誰かを呼びやめさせることだってできるが、それをできない自分が恨めしい。
心の中でそんな葛藤を繰り広げていると、胸の突起に刺激を感じて悶えてしまった。
「くっ・・・、いい加減にやめ・・・ろ・・つらら」
「あら、そんなに反応してらっしゃるのに・・?」
自分だって男だ。反応してしまうものはどうしようもない。
しかし、後一歩のところで自分を押し留めているのは背徳感に他ならない。
自分の側近というだけでも十分理由になるが、半分夢の中にいて理性を持たない女に手を出すことはさすがに戸惑われた。
「リクオ様、そんな強がらなくても、私・・・分かっておりますよ」
「何がだよ・・・」
「本当は喜んでいらっしゃるのでしょう?ほら・・・」
そう言ってつららはこともあろうに、先程から主張し続けている下半身を優しく握った。
「なっ・・・おい!」
そんなリクオの言葉もよそに、静かに優しくその手を動かし始めた。
「やめろって・・・いってんだろ」
「ではなんでこんなに・・・なってるんですか?」
口端を上げて妖艶に微笑みながら上目がちにそう聞かれては言い訳のしようがない。
強がってはみたものの、その優しい手の動きにだんだんと足が立たなくなってくる。
とうとう壁に背をつけたまま座りこんでしまう。
「あら・・リクオ様。そんなに気持ちが・・いいですか?」
相変わらずとろんと所在のない瞳で問いかけてくる。
「いつまで寝ぼけてるつもりだよ・・」
「ねぼけてなどいませんって・・・リクオ様こそいつまで強がっておられるのですか」
そう言って座り込んだ自分の上へ乗ってくる。
その背には月が見えた。
月光を背にしてるためその表情は見えない。
しかしその妖艶な雰囲気は痛いほど伝わってくる。下半身を中心に。
「・・・どうなってもしらねぇぞ?」
「私はもとよりそのつもりですが・・」
「そうか」
もうどうにでもなれと理性を撥ね退ける。
肌蹴て肩にあやうくかかっている薄い襦袢をそっと落とした。
「ったく・・・途中で目ぇ覚ましたってしらねぇからな」
肌蹴た襦袢の隙間から手を差し入れ、その中で申し訳ない程度に膨らむ場所を揉み上げる。
「ぁっ・・・」
途端に甘い声を発する。普段から可愛らしい声をしているが、それとは全く別のものである。
そんな声にさらに興奮を覚え、揉み上げながらその中心の突起物を優しくつまんでやる。
そうすればさらに甘くとろけるような嬌声を上げるのだった。
「んぁ・・・ぁっぁっ・・」
未だ自分の足の上に乗って悦に浸るつららを抱き上げると、敷かれた布団の上へそっと寝かせる。
そして覆いかぶさると、熱い接吻を浴びせる。
「・・っ、ぅ・・・・リクオ様・・」
冷気がこみ上げてくる前に口を離し、そのまま鎖骨へかじりつく。
「ぁっ!・・痛いです」
「ん?あぁ・・わりぃ」
少し力を入れすぎてしまったことに謝りそこを舐めてやる。
そして別の場所へまた口をつけて今度は少し弱めに吸い付く。
口を離すとそこには自分の所有物である証が花咲かす。
そのままつーっと舌を這わせて南下し、行き着いた山の頂に吸いつく。
ちゅ、ちゅう・・とわざとらしく音を出してさらに吸い上げるとそれに合わせてつららが悩ましい声を上げた。
「んぁ・・・ゃん・・・っ」
いやいやと身をよじり始めたのを見てにやりと口角を上げる。
「おい・・今更いやがってもだめだぜ。さすがに今度ばかりはお前が悪い」
「・・・」
見れば、先程まで虚ろだった目に少しずつ光が戻っている。
その目には明らかに、動揺と恐れ、不安のようなものが見て取れる。
ようやく目が覚めてきたようだ。