book1


□きよしこの夜
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リクオはあるアクセサリー屋に着くと、つららを静かにおろした。

「あら、ここは・・・」

そこは、最近若者の間で流行っているアクセ屋だった。
浮世絵町で最も安価なアクセ屋だがデザインは可愛らしく、値段の割りにいい物が揃っている。

「最近流行ってるお店ですよね!わあっ、これかっわいー」

つららはリクオの存在も忘れて夢中で物色している。
リクオはそんな子供みたいなつららをみてくつくつと笑うと、ある指輪を手に取った。
それはシンプルなシルバーリングに、雪の結晶をかたどった水色の小さな石が埋め込まれている。

値段をみるとそこそこで、12歳のリクオでも手の届く程度だった。

「・・・まぁやっぱ玩具だが、しばらくはこれで我慢してもらうか」











「あ、リクオ様!どこに行ってしまわれたのかと心配しましたよ!」

店の物色に満足したつららがリクオを見つけて駆け寄ってきた。

「よく言うぜ。お前は無我夢中で店ん中駆け回ってたじゃねぇか」

「うっ」

「満足したか?じゃあそろそろ帰るか」

「え・・用事があったのではないんですか?」

つらら本人は自分が店の物色をしただけで終わったと思っている。

「ああ、用事は済んだぜ。それに何も言ってきてないからな、あんま遅くなるとカラス天狗がめんどくせぇ」

そう言うとリクオはつららの手を握って帰路を歩き始めた。










「あの・・リクオ様」

「ん?なんだ」

「今日はありがとうございました、すごく楽しかったです!」

「そうか。まぁ別に大したことしてねぇよ」

「いえ、そんなことないです!リクオ様とこうして出掛けられたことが嬉しいのです」

つららは夜であることを忘れさせるくらい眩しい笑顔でそう言った。

「それくらいでこんなに喜ばれるたぁ思わなかったな。じゃあ仕上げだ、ほら」

リクオは懐から先ほど買った指輪を取り出すと、つららの左手の薬指へすっと通した。
以前悟られないようにこっそりとサイズは計測済みで、ちょうどよくフィットしている。

「えっ・・・」

つららは自分の指に光るそれを見て目をぐるぐるさせている。

「あの・・・これは?」

「なんだよ。見りゃぁわかんだろ?指輪だよ」

「いえ、そうではなく・・・」

「あぁ、言葉が足りなかったな。"エンゲージ"を足しといてくれ」

「エ・・・エンゲージって・・」

「んだよ、そこまで教えないといけねぇのか?」

「意味はわかりますっ!でもなんで・・私に?」

「ふう・・・別に渡す相手を間違ったりしてねぇぞ。「お前に」渡したんだ」

リクオは照れくささからそっぽを向いていたが、ふとつららの顔を見ると目を潤ませている。

「な・・なんで泣いてるんだよ。俺が泣かしたみたいじゃねぇか」

「別に・・・・間違ってないじゃないですか」

頬を真紅に染めて目を潤ませている。でも口は笑っていて、いじわるくそう言った。

「なんだ?今度はやけに余裕そうだな。そんな顔できないようにしてやろうか」

リクオはそう言って顔を近づける。

「ちょ・・わ、若待ってください!」

「お、速攻余裕の色が消えたな。くくっ」

「だ・・だめですよ!だって・・」

「まだ子供だから、だろ?」

「・・・はい」

「オレがガキんときからお前に口すっぱくして言われてんだ。わかってらぁ」

「ちゃんと・・覚えてるんですね」

「当たり前だろ。ついでに言うと気持ちも変わってねぇ」

「えっ・・・」

「お前も分かってると思うが・・もうすぐオレも妖怪としては元服だ。その意味もわかるよな?」

「・・・はい」

「ったく・・なんだよ、もう少し嬉しそうにしたらどうなんだ」

「う、嬉しいですよっ!ほんとです」

「じゃあこの指輪、本物渡すまでのつなぎとして持ってろよ」

「・・・はい!」

「嫌なら別にいいんだけどな。くっくっ」

「いやなわけないじゃないですかぁ!リクオ様とクリスマスに出掛けられただけで嬉しいのに・・・こんな物までいただいて、私は幸せ者ですっ・・」

いよいよ目から氷の粒をポロポロと転がし始めたのでリクオは笑ってしまった。

「ほんと泣き虫だなつららは」

「・・・若、お言葉ですが、若も幼い頃は・・」

「・・・赤ん坊は泣くのが仕事だ。ほら行くぜつらら」

つららが昔の話を持ち出そうとしてきたので慌てて屋敷へ歩きだした。

「あっ・・・待ってくださいリクオ様!」

「あーもうこんな時間だぜ。すっかり遅くなっちまった。腹減ったし、まだ飯残ってっかな」

「ご安心くださいリクオ様!なくなっていても私がいくらでもお作りいたします!」

つららは追いつくと、リクオの腕に手を絡めて寄り添った。






リクオ12歳のクリスマスの晩のことだった。
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