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□きよしこの夜
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今日は12月25日。クリスマス。
あれから7年の年月が経った。
今年は珍しいことにこの辺りでは雪がぱらついている。
― 昨日の晩のことだ
リクオは部屋でつららに晩酌をさせていた。
「つらら」
リクオの容姿は夜のそれへと変わっている。
「はい、なんでしょうかリクオ様」
つららは手に持った徳利を傾けて主の盃に酒を注いだ。
「明日、お前暇か?」
「明日、でございますか?明日はクリスマスパーティのお料理を作り終えましたら暇ですが・・・。それがどうかなさいましたか」
「そうか、じゃあ明日その仕事が終わり次第オレのところへこい」
「?はい・・わかりました。何か御用がおありですか?」
リクオが晩酌のためにつららを晩に呼び出すことはよくあることで、全く
珍しいことでもなんでもなかった。
しかし、明日の晩はそれなりに規模の大きい宴があるのでつららはリクオも出席するものだと思っていた。
「まぁ、たまにゃこの日に外へ出ようと思ってな」
「お出かけでございますか。でも宴には出席なさらないので?」
「あんなもの、毎年出てるしちょっとくれぇすっぽかしてもかまやしねぇよ」
そう言って手に持った盃をくいっとあおった。
昨日の晩にそのような約束をこじつけたので、今リクオは部屋でつららを待っているところだった。
おせぇなあいつ。まぁこの時期の宴は毎年えれぇ忙しいからな、仕方ねぇか。
すると不意に障子がすっと開いてつららが現れた。
「申し訳ありませんリクオ様!仕事のほうが思った以上に忙しくて・・・やっと抜け出してくることが出来ました」
見るとつららはだいぶ息を切らしている。
「あぁごくろうさん。こんな忙しいときに呼び出したりしてすまなかったな。つーか抜け出してきたって・・・まだ終わってねぇのか」
「いえ!滅相もございません。毛倡妓があとは任せろと言うので・・。つららはどこへなりともお供いたします!」
つららは他の誰でもなく自分がリクオの出掛けのお供に呼ばれたことが嬉しくて仕方ない様子だった。
「いつもながら毛倡妓のやつはほんと気が利くぜ」
「もう少しで終わるから早く行けってきかないんですもの」
「んじゃお言葉に甘えるとしようぜ。いくぞつらら」
そう言うとリクオはすっと立ち上がって厚手の上着を羽織ると外へ出た。
「リクオ様、寒くないですか?」
「ちょっと寒いな・・・まぁこうすれば寒くない」
と言ってつららの肩を抱き寄せた。
「ちょ、リクオ様!?それじゃ余計寒いじゃないですか!・・・どちらかと言うと私が温かいのですが」
「いいじゃねぇか・・・気にするなよ、ほれ」
今度は頬に口付けをする。
するとつららは頬を真っ赤に染め上げてワタワタし出した。
「り、りりリクオ様!こんなところで・・・じゃなくて!何やってるんですか!」
「ったく、頬くらいで大げさなやつだな。それだから毛倡妓にも初だってからかわれるんだぜ」
「もう・・・夜のリクオ様は大胆で困りますっ」
「そうか?とてもそうは見えねぇ、むしろすげぇ嬉しそうに見えるんだが俺だけか?」
そう言ってくつくつと笑うと、浮世絵町の一番賑わう通りに向かって歩き出した。
通りへ出ると、ため息が出てしまうような煌びやかな光景が広がっていた。
冬らしい厚着を着込んだ人々が行き交い、クリスマスならではのイルミネーションが色とりどりの光を発していた。
そんな光景を見ていると、隣にいるつららの薄着にとても違和感を覚えてしまう。
その光が真っ白なつららの顔を色鮮やかに彩り、幻想的な気持ちにさせる。
おまけに今日は珍しく雪まで降っているから、その雪女の美しさに拍車をかけた。
「わぁ・・・すごい、綺麗ですね!」
予想に反しない感嘆の声を漏らした。
リクオは「お前のほうが綺麗じゃねぇか」と思いながら、
「だろう?お前はいつもこの時期屋敷で仕事に追われてるから初めて見るだろ」
と言って幻想的なつららの姿を眺める続けている。
できればずっと眺めていたい、それくらいの魅力を醸し出していた。
「はい!もしかしてリクオ様・・私にこれを見せるためにここへ?」
「ほう、察しがいいな。でも今日はそれだけじゃあないんだ」
「え、まだ何かあるんですか?」
「まぁそのうちわかるさ。おっ、ちょっと待ってろ」
リクオは近くに時期はずれのアイスクリーム屋を見つけると、バニラアイスクリームを一つ買ってきてつららに差し出した。
「わ、いいんですか?ありがとうございます」
雪の降る中、アイスクリームをほおばり、雪女にとっては最高の状態だろうなと思いながらその姿を眺めた。
「これ、おいしいですっ!リクオ様も一口どうですか?」
そう言って手に持った食べかけのアイスをリクオの口の前へ差し出してきた。
しかしそのつららの口の端にはお約束のように白いものがついている。
「くっくっ」
「な、何がおかしいんですか若!」
よく分からないが笑い出したリクオを見て頬を膨らましている。
「じゃあほんの一口だけいただくとしよう」
そう言って、差し出されたアイスではなくつららの口端についた白い粒を舐めた。
「え、えぇぇっ!ちょっとリクオ様!?何するんですかぁ」
「うん、あんまり甘すぎなくてうめぇな」
ニィっと笑った。
それを見てつららは頬を朱色に染めて袖で口元を隠した。
「口にアイスくっつけて、いくつだよおめぇは」
「うっ・・・言わないでくださいよっ」
「まぁそういうところが可愛いんだけどな」
つららは再び頬を上気させている。
「か、可愛いって・・リクオ様!こんな年増に可愛いなんて」
「年増?いくつなんだ実際?」
「・・・若。乙女にそんなこと・・・聞いちゃいけませーん!」
「おっと悪い悪い!よし、行くぜつらら」
そう言うとリクオはすっとつららを抱き上げて走り出した。
「きゃっ!お、降ろしてくださいリクオ様!」
「まったくうるせぇ姫様だぜ」