book2

□園の中の小人
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「リクオ様!リクオ様ー!」



昼下がりの商店街。

雲ひとつない喉かな日和。

そんな穏やかな風景に似つかわしくなく、顔を蒼白にして駆け回る側近の姿があった。



「もう・・・どこへ行ってしまったのかしら」


たまにはと思って、彼を連れ立って買い物に出たのが事の始まりだった。

用事で少し目を離した隙に霧散してしまった彼。


屋敷の中ではそんなこと常時だったが、ここでは話が違う。

一言に商店街といっても広すぎる。


これを隈なく探し回っていたらそれこそ日が落ちてしまうだろう。


「仕方ない、増援を呼ぼう!」


そう決めて屋敷へと足を向ける。


商店街を出て、脇にこじんまりと構えた公園の前でふと足を止めた。



「・・・?」



確かに―

今この中から彼の声がしたのだ。

息を切らして公園へ踏み入ると、砂場に小さな二人の子供。

楽しそうに話しながら砂遊びをしている姿が目に入った。


そのうち片方は間違いなく、自分が探している彼だった。

もう片方は、彼と同じくらいの小さな女の子。


ほっと胸を撫で下ろし、そちらへ歩み寄る。


「リクオ様、見つけましたよ」


そう話しかけると、彼はぱっとこちらへ振り向いた。

その顔は泥だらけで、思わず噴出してしまう。


「ゆきおんな!」


そう言うなり、彼はぱたぱたと駆け寄ってくる。

見れば服もどろんこだ。


「あらあらそんなに汚して・・」

「ゆきおんな!僕、お友達できたんだ」

「よかったですねぇ、若」


嬉しそうな顔で笑う彼。

その顔を見て、思わず口元が緩んだ。


一緒に遊んでいたその女の子は、丁寧にお辞儀をする。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」


そう言って同じく丁寧にお辞儀を返した。


「お名前、なんていうの?」

「えっと・・・カナです」

「カナちゃんね、リクオ君と仲良くしてくれてありがとう」


にこりと、柔らかく微笑む。


「カナちゃん、続きしよっ!」


そう言って少女の手を取ると、また砂場へ戻っていく。

それを見て、一抹の寂しさが胸を突いた。


なんだろう、この気持ち―

それは親離れしていく我が子に親が感ずるような、それに等しかった。


そうやって、段々私から離れていくんですね―


「リクオ様、もうすぐお夕飯の時間ですから帰りますよ!」

「えー・・・もっと遊びたい」


その言葉に、また押し寄せる寂しさ。

屋敷の庭で一人で遊ぶ彼は、普段そんなこと決して言わない。

素直に手を引かれて帰るものだ。


でも―

今はその子と、もっと遊びたいんですね―


そんな幸せな遊び相手に、小さなやきもちを抱いた。


「だめです、遅くなったら皆が心配しますよ!」

「ちぇっ・・・」


彼はその泥だらけの頬を膨らすと、渋々立ち上がった。


「じゃあね、カナちゃん!またあそぼ」

「うん」


そう言って、彼は私のほうに駆けて来た。


ちょっと悪いことをしてしまったかな、なんて後悔する。


そう思いながら、別れを惜しむ彼の手を優しく引いた。


そして、そんな彼の表情を見て― また寂しいな、なんて思ってしまう私は我侭だろうか。


「ねぇゆきおんな!」


そんな私の胸中なんて露ほどにも知らずに、彼はまた無邪気な笑顔を向けてくる。

その笑顔は眩しくて、思わず目を細めてしまうほど。

女々しいことばかり考えてしまう自分が恥ずかしくて、対抗するように自分も明るく微笑み返す。


「はい、なんでしょうか若」

「帰ったら今度は、ゆきおんなが遊んで!」


その言葉に意図せず嬉しさがこみ上げた。

彼はただ純粋に言っているだけだろうけど。


先程から抱える一抹の寂しさを吹き飛ばしてくれる。


「もう・・・ご飯食べてからですよ?」


しょうがないですね、と言って困った顔を見せる。


しょうがない、なんてこれっぽっちも思ってないですよ。

ほんとは今すぐにでも、そうしたい。




でも―

さっきの仕返しですから。


そう心の中で笑いながら、帰宅後の楽しみに思いを馳せた。

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