book2

□晴れのち曇り時々恋模様
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『晴れのち曇り時々恋模様』







ああ・・・朝だわ



私は重い瞼をゆっくり上げて襖の隙間から漏れる朝日の眩しさに目を細めながらぼんやりとそんな事を思った

ここ最近寝つきが悪くしかも眠りも浅いため寝不足気味だ

別に怖い夢を見たわけではない

むしろその逆で・・・・

毎晩見る夢のせいで私はここ最近まともに眠れなかった

重い体を引き摺るようにして布団からようやく起き上がると、寝不足で頭痛を訴える頭を押さえながら溜息を吐いた

「本当にどうしちゃったのかしら」

ぽつりと零れた言葉は弱々しく

漏れた溜息は酷く重苦しかった







「はぁ」

小さく吐かれた溜息の音に、前を歩いていたリクオは敏感にも気づき、ちらりと視線だけを向けると小首をかしげた



今日のつららは何か変だ



数歩後ろを歩く元気印の側近が、今日はいつにも増して気落ちしている

何か悩みでもあるのだろうかとリクオは少し気になったが、側近の気持ちを尊重する主としては彼女が直接話してくれるまで待ってやりたい

そう心の中で思いつつ、リクオは気づかれないようにこっそりとつららの様子を伺っていた



そんな『主の鏡』のようなリクオの思いとは裏腹に、つららはまたしても小さく溜息を零していた



はぁ・・・・



最近眠れない

眠れなくなったのはあの時から

そう、京都で羽衣狐との戦いが終わってからだ

帰ってきたばかりの時はその興奮と安堵で気づかなかった

しかし血生臭い戦場から、平和な世界へと戻った自身の心は少しずつ平静を取り戻し

数日たったある朝

私は久しぶりに見た夢に驚き

そしてその時思った感情に正直焦った

そして戸惑った



側近としてあるまじき事

下僕としてなんとも恐れ多い事



私は

私は・・・・

リクオ様を



好き



ううん

それよりももっと深い



何か



つららはそこまで考えてふと目の前のリクオを見た

その瞬間、自分ではコントロールできない感情に見る間に頬が熱くなっていく

つららは赤くなった頬を隠すように、トレードマークのマフラーに深く顔を埋めて視線を落とした

リクオ様を好きという想いは昔からあった

しかし、最近の私のこの想いは少し違う



私って・・・・



つららは自身の胸に燻り出した熱いものを吐き出すように、また小さく溜息を吐いた







また・・・・



つららは双眼鏡を食入るように覗き込みながら内心で舌打ちしていた

今つららが覗いているのは移動教室の先の理科実験室

その双眼鏡の先では主であるリクオが授業に勤しんでいる最中だった

何かの実験をしているのか、リクオと同じ班になった家長カナがあろうことかリクオと一緒に仲睦まじく共同作業をしていた

「ああ、あんなに近づいて!」

つららは両手に持っていた双眼鏡を力一杯握り締める

その途端、双眼鏡から哀れな悲鳴がみしりと響いてきた

「おいおいおい雪女、そんなに強く握ったら壊れるだろーが」

同じく隣で双眼鏡片手にリクオの様子を伺っていた青田坊が呆れた声で注意を促した

「え?」

青田坊に指摘され、つららは素っ頓狂な声を上げて顔を上げる

手の中の双眼鏡はくっきりとつららの細い指の痕が付いていた

「あ、あら・・・私ったらおほほほほ」

つららは今の今まで気づかなかった様子で、口元に手を当てると笑って誤魔化そうとした

そんなつららをジト目で見ていた青田坊は

ぽつり

「女の嫉妬はこえーなぁ」

と溜息と共に小さな声で呟いていた
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