book2

□晴れのち曇り時々恋模様
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ばかばかばか・・・私のバカ!



なんでこんな事になってしまったんだろう?



なんでこんな気持ちになってしまったんだろう?



つららは廊下を走りながら胸中で何度も繰り返していた

自室へと逃げ込むと内側から入り口を己の冷気で塞いだ

今は誰にも会いたくなかった

乱れた呼吸を静かに整えていると、先程の自分の行為を今さらながらに恥ずかしく思えてきた



何をやってるのだろう・・・・



あんな光景は日常茶飯事だったのに



きっと毛倡妓のことだから今夜の夕食の希望とかを聞いていたに違いない

同じ側近仲間として信頼を寄せる彼女は自分よりも気の利くできた女性だ

しかも昔、花魁をしていたこともあって色気も十二分にある

同じ女である自分から見ても、毛倡妓は大人の女性としてかなり魅力的な存在だった



はっ!私また嫉妬してる〜〜〜〜



嫉妬のドツボに嵌っていた自分に気づきつららは胸中で絶叫した

つららはもう情けないやら恥ずかしいやらでその場に蹲り、しくしくとすすり泣き始めた



本当に本当に情けない



自分は側近なのに何を普通の小娘のようなことをしているのだろうと

自身の不甲斐なさを嘆いた

これもみんなあんな夢を見るようになってからだ

そうあの夢



京都で何度もリクオに助けられたときの夢



なんども触れた熱い体

力強い腕

逞しい胸板



思い出しただけで顔が熱くなっていく

つららの最近の寝不足の原因はコレだった

毎朝、刺激的な夢を見るせいで絶叫と共に飛び起き、煩い心臓を落ち着かせるのに苦労していた

しかも前にも増してリクオのことが気になってしまう

しかもそれに比例してこの心は厄介な感情まで引き出してくれた



強い独占欲



今のに比べれば以前の嫉妬など可愛いものだ

昔は幼馴染のカナや知らない女にだけ向けられていたソレが今は仲間の側近達にまで向かってしまう

そんな厄介な感情につららは堪らないと溜息を零した



こんな事で悩んでる場合じゃないのに



自分はもっともっと修行して強くなってリクオ様をお守りしなくてはならないのに

つららは涙でぐしょぐしょになった顔を上げるときりっと眉を吊り上げた



こうなったら!!



つららの黄金螺旋の瞳には強い決意の光があった







「暫くの間お暇を頂きます!」

「ええ?つららちょっと待って」



夜の蚊帳が降り始めた日没時

奴良家の奥座敷で主と側近のやり取りが響いていた

リクオは突然話があるとやって来たつららの言葉に素っ頓狂な声を上げていた

それもその筈、部屋に来るなり突然三つ指ついて頭を下げてきたかと思ったら、実家に帰って修行して来るというのだ

しかも先程の言葉通り直ぐには帰って来ないつもりらしい

お暇を貰うという事は一週間やそこらでは帰ってくる気がないということ

下手をすれば一ヶ月、いやそれ以上かもしれない

キッと面を上げたつららの真剣な視線に、それが冗談では無いことを悟ってリクオは何故か喉の渇きを覚えてごくりと唾を飲み込んだ

「それではリクオ様、つららは更に強くなって戻って参ります、あ、洗濯物や護衛は毛倡妓や首無に頼んでおいたので心配要りません」

つららは眉をりりしく吊り上げながらそう言うと

巨大な風呂敷包みをよっこらせと肩に背負い、直ぐにでも出立しそうな勢いで立ち上がった

それを見て慌てたのはリクオの方で

「ちょ、ちょっと待ってよなんで急にそんな事になったの?」

せめて理由を言ってよ、と慌てて説明を求めるリクオにつららはびくりと面白い位に反応し見る間に顔を赤くさせていく

その様子をたまたま居合わせていた側近達は



はは〜ん



と何かに感づいた

特に青田坊などは思い当たる節が2、3あったらしく、にやりとしたり顔をしている

それを見た他の側近達も顔を見合わせてポンと手を打ち合っていた



なるほどそういう事か







そこで側近達は良い機会だとお互い目で合図を送り合い、知らぬふりを決め込む事にした


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