小さいモノ

□小さいモノB
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コチ・・・コチ・・・コチ・・・

俺と北峰先輩しかいない部屋に、壁にかかった時計の音がやけに響いていた。

俺は、その時計の規則正しい音と、これまた規則正しい先輩の寝息をききながら考える。

先輩のこと。

ずっと思っていたのだが、これ以上、他の役員達が仕事をしなかったら・・・。

先輩は死ぬ。

確実に過労死する。

だったら他の役員がちゃんと仕事をすればいいだけの話なのだが、そう上手くいっていたなら先輩は今頃ぶっ倒れていたりなんてしないのだ。

他の役員達が仕事をするには、陸也への気持ちをどうにかしなければならない。

ただいま役員達は絶賛陸也にベタ惚れ中なので、どうにか陸也を自分に振り向かせようと必死なのはわかるが、それで毎日どんちゃん騒ぎをし、仕事を怠るのはイコールにはならない。

だから役員達には陸也をあきらめて・・・とまではいかないものの、せめて自分の仕事をするくらいのことはしてほしい。

・・・と思うのだが・・・。

それには大きな問題がある。



仮に役員達が仕事を再開したとして、陸也との時間を減らしたとする。

まぁ、今の状態からすると、夢のようなことなのだが。

もし、そうしたらどうなるのだろう。

役員達がではなく、北峰先輩がでもなく・・・陸也が。

陸也は人に愛されたい。

否、拒絶されたくない。

拒絶が嫌い。

否、拒絶が怖い。

束縛したいわけでも、されたいわけでもなく。

愛されたいわけでも、愛したいわけでもなく。

ただ、拒絶されることを恐れている。

それに対しては陸也に全く罪はない。

陸也の責任ではなく俺の責任だ。俺の罪だ。俺の罪からでた産物だ。

だけど、そんな陸也から役員達が離れていったら・・・。

そんなことを思うと、どうしても俺は仕事をしない役員達に対して強く言えないのだ。





『・・・ぃ・・・いやだ・・・』

どくり。

唐突に昔の陸也の声が蘇る。

陸也は何も悪くない。

何も悪くない悪くない悪くない。


最近は落ち着いてきた陸也。

この学園にきて、みんなに愛されることになった陸也。

今は大丈夫かもしれない。

けれど。

このまま陸也が愛されることに慣れてしまったら、状況は違うのだ。

そうしたら少しの拒絶も、陸也には大きな影響を与える。

そうしたら陸也は。





壊レル。


陸也が壊れるところなんて“もう”見たくない。




俺は結局は先輩を心配しているわけではないのだろうか。

陸也だけを心配しているのだろうか。

はたまた、壊れていく陸也を自分が見たくないからという、自己防衛のためなのだろうか。

よくわからない。


だけど、俺は今のままではいけない。

そう思うのだ。

全ての元凶は陸也たちであるとしても、その根源を叩かなくても、先輩の方をサポートできればいいわけだ。

そうすれば物事は擦れあうことなく上手くいく。

だけど、ただの一般生徒である俺が、先輩の仕事を手伝えるかといえば答えは、無理。



・・・うーん。

俺にできることって、あるのだろうか。
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