小さいモノ
□小さいモノB
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なんだかとってもいたたまれないのだが、そろりと先輩の胸ポケットへ手を伸ばす。
内心平謝りを続けながら伸ばした手に、とん、という衝撃。
カードキーを発見することに成功。
カードキーがすぐに見つかってよかった。
かなりほっとする。
カードキーが見つからなければこの状況が長く続くわけで。
そんな風に考えると本当にいたたまれないので素直に見つかった先輩の黒いカードキーに感謝したいところだ。
まぁ、そんな時間も余裕も全くないのだが。
先輩をよけて扉の真正面に立つ。
そして扉についているカードスキャンにカードを差し込む。
かちゃり。
軽い音がして先輩の部屋のドアが開いた。
ここで一息。
周りから見れば、倒れている北峰先輩と、先輩の部屋に入ろうとする俺。
まさに俺が先輩になにかしたようにしか見えない。
実際周りは変わらずに静かで、人の影はないけれど。
・・・さて、あらためていたたまれない状況を再確認したところで、俺は先ほど鍵を開けたドアの取っ手を握る。
そしてそのままドアを開ける。
ドアの向こう側は、とてもとても広い生徒会専用ルームが広がっていた。
そのあまりの広さに驚くも、今は驚いている場合ではないと判断。
「・・・おいしょ」
先輩を担ぐ。
人を担ぐなんて経験はあまりない(疑似体験は陸也を通してたくさんあるのだが)ので自分より長身である先輩はかなり担ぎにくい。
それでもなんとか抱き起こし、担ぐことに成功。
こんなに動かしているのに目の覚めない先輩。
この人、本当に大丈夫なのだろうか。
先輩の長い足の方は、ずるずると引きずることになってしまうが、俺には罪はないのでご勘弁。
俺は先輩を担いだまま、ベッドを探す。
リビングのソファでも、この大きさとふかふか感であれば大丈夫なような気もしないでもないが、どうせ不法侵入なら、先輩を一番良い待遇で寝かしてあげた方がいいのでは、という勝手な俺の思い込みにより、先輩の脚はずるずると引きずられている。
このままつま先が磨り減ってしまいそうだ。
リビングを抜け、一つのドアにつく。
おそるおそる開けてみるとベッドを発見。
きれいに整頓されているベッドに先輩を寝かせる。
「・・・ふぅ」
ひと段落ついた。
急いで廊下に戻り、先輩が撒き散らしたであろう書類を回収する。
一枚一枚拾い、整えてから再び先輩が眠っているはずのベッドへと向かう。
もちろん先輩は全く動こうとせずに眠っている。
とりあえず寝かせたが・・・このあとはどうするべき。
俺はここにいるべき?
「・・・」
運良くここで先輩が起きる、なんてことはさすがにないわけで。
「熱は・・・ないよな」
先輩が風邪を引いてぶっ倒れていたのなら大変だ。
急いで先輩の額に手を当て、平熱だと確認。
少しほっとするが、だったら逆にどうして倒れていたのだろう、という疑問が浮かぶ。
・・・まぁ、なんとなく想像はつく。
俺は未だ眠っている先輩のきれいな寝顔を見る。
固く閉ざされた目のしたにはくっきりとしてきた隈。
先ほど通ったリビングのテーブルにもたくさんの書類が積んであった。
・・・仕事、そんなに忙しいのだろうか。
1人で5人分の仕事をやっている計算になるのだから大変なのは当たり前か。
この学園は行事も全て生徒会が行うことになっているからさらに大変だろう。
それをたった一人でやってるんだ。1日でどれだけ終わらせることが出来るのだろうか。
少なくても隈がこんなにくっきりでているのだから、毎日睡眠時間を削るほど、仕事に余裕がないことくらいわかる。
「どうして・・・」
先輩の寝顔を見ていてつい、出た言葉。
どうしてそんなに必死にがんばるんですか?
仕事をしない役員が悪いのに、どうして必死に彼らの分も北峰先輩が仕事しなくちゃいけないんですか。
そう問いかけたらどんな答えがかえってくるのだろう。
そんな疑問。
「・・・」
倒れるまで仕事するとか・・・。
この人、頑張りすぎ。
・・・この人、優しすぎ。