小さいモノ

□小さいモノA
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※会長視点








目が覚めた。

未だぼんやりとした視界。

目をこすりながらベッドらしきものの上に寝ている状態の体を起こす。

・・・・ここは、どこだ。

確か、生徒会室で仕事してて、風紀に書類を届けようと・・・・。

「起きたか」

ベッドの周りを囲っていたカーテンが開き、誰かが入ってきた。

「和也か」

侵入して来た人物は仕事柄俺の良く知る人物であった。

綾瀬 和也。

風紀委員長をしている男だ。

「気分はどうだ」

そう聞かれてなんとなく自分の身に何が起こったのか。

「倒れた・・・のか」

「あぁ、風紀委員室に来た瞬間にばったりな。書類は受け取ったぞ」

「・・・・そうか」

ということはここは保健室か。

新迎会も終わり、なんとなく気が緩んでいたような気がする。

新迎会が終わったってけっきょく書類は多いままだし、もう少しで体育祭もある。

ひとつ行事が終わればまた次の行事。

休む暇がない。

「・・・お前以外の役員はどうしている」

「俺に聞かなくてもわかるだろう」

風紀委員長ほどの地位にいるのだから、『事実に基づいた噂』くらいは入ってくるだろう。

「藍川陸也か・・・」

和也はついこないだ入ってきた転入生であり、たった今俺がおかれている状況を作った張本人の名前を口にする。

「あいつのおかげで近頃は親衛隊の動きも活発でな。風紀のほうもずいぶんと大変だ」

ため息交じりに話す和也。

「お前、このまま役員抜きで仕事するのか」

その質問にどきりとする。

「お前一人で出来る量の仕事ならいい。けど、そんな半端な仕事の量じゃないことはわかっている。このままやっていけば、また倒れることになるぞ」

和也の言っていることは正しい。

俺一人でこなせる量をはるかに上回る仕事の量。

いつまでも転入生と遊び、仕事を全くしない役員達。

このまま行けば、生徒会内だけの問題ではなくなってくる。

そんなのわかっている。

「・・・俺は・・・あいつらが戻ってくることを信じている」

そう、俺は信じている。否、信じたいんだ。

「・・・・そうか。お前がそれでいいのならいいが・・・」

和也は少し驚いたような表情をした後、いまいち納得言ってない様子だが、認めてくれた。

「風紀委員長っ」

カーテンの向こう側から誰かの声が聞こえた。

「なんだ」

どうやら風紀委員らしい。

「はい。今、副会長、会計、書記、庶務、塚本、そして藍川兄弟が生徒会室に向かったようです」

「そうか。報告ご苦労」

カーテンの向こう側の委員はそれだけ言うとすぐに保健室を出て行った。

「よかったな。あそこで仕事をやっていたら鉢合わせだったぞ」

冗談交じりに言う和也。

正直仕事の邪魔をされるのは嫌なので本当に鉢合わせしなくてよかった。

少し微笑んだ和也の顔が、すぐに真顔に戻った。

「先ほども言ったが、最近親衛隊の動きが活発になっている」

真剣な顔で和也が続ける。

「近いうちに、制裁が起きるかもしれない」

「藍川陸也にか」

「ちがう」

俺の考えたことは和也によって否定される。

「藍川空穂にだ」

和也の言葉になんとなくどきりとした。

「親衛隊のやつらは、顔が良く、生徒会の役員のガードの堅い藍川陸也には手を出さず、その近くにいる藍川空穂のほうを叩くようだ」

なるほど。そういうことか。

役員に近づいたという理由ではなく、叩きやすい奴という理由で弟の方へと悪意の矛先を向けたわけだ。

「まぁ、お前には関係ない話かもしれないが」

風紀委員会のほうも苦労しているようで、はぁ・・・とため息をつく和也に少し同情した。

「さて、そろそろ俺は戻る。ちゃんと飯食えよ」

細すぎだ、と付け加えられ、念を押すように俺と視線を合わせた後、保健室の外へと出て行った。

俺も保健室からでなくてはいけない。

いつまでもベッドの上で寝ていたい気分だが、あいにくまだ仕事は溜まっている。

そう思い、ベッドから降りようとしたときだった。

「もう少し寝てたら?」

カーテンの向こうから誰かの声がした。
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