novel (short : others)

□snow drop
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「私、この花が好きなんです」

「ああ、確かにこの花は七緒ちゃんのイメージだね。控え目なようでいながら凛として自分をしっかり持っている…そんな感じがピッタリだ」

「え、本当ですか!そんな風に言ってもらえるなんて、何だか恥ずかしいけれど、とても嬉しいです」

医務室の掃除をしにきていた七緒は、植物図鑑を見ていたソウシの横から覗き込み微笑んでいた。

「ドクター、船長が呼んでるぞぉー」

楽しげに会話をしている間に割って入るようなバツの悪さから、ハヤテはぶっきらぼうな顔を装ったまま入ってきた。

「そうだった!一緒に出かけるんだったよ」

ソウシは、うっかり忘れていた事を苦く笑いながら、あっと言う間に部屋を飛び出して行った。

今朝着いた、北に位置する無人島はたまたま発見した小さな島で、こんもりとした森があるだけで、これといった特徴もなくお宝が見つかりそうな気配もない。

リュウガは偵察の共にソウシを指名した。
シンとナギも逆回りからの偵察で既に出掛けている。

今回ハヤテは珍しくトワと七緒とお留守番組を言い渡されてしまい、面白くなかった。

「……」

部屋に七緒と二人だけ残されるという状況に、こんなにも意識してしまう自分が嫌になる。

「…こいつの何処が控え目だよ」

不服な思いと照れる気持ちが、毒づく言葉となり飛び出してしまう。

掃除用具を片付けていた七緒の手が止まった。

「…何ですか?何か言いたいことがあるのなら、はっきりと言ってください」

七緒が自分を見る時の目は決まって挑むような目で、先ほどソウシに微笑んでいた優しさも、ナギを見つめる時のしっとりとした女っぽさも微塵も無い所が、ハヤテは気に入らない。

「お前、こんな所でサボってていーのかよ」

「サボってなんか…」

彼女の反論しかけた口は、無駄だと思い直したのか、途中で閉じてしまった。

「何だよっ、言いかけて止めんなよっ」

ハヤテは掃除用具を持って部屋を出て行こうとした後ろ姿に怒鳴った。

「いいえ別に…次の仕事があるので行きます。またサボっていると怒られますからっ!」

七緒は振り返り、イーッだっ!という顰めっ面を見せてから出て行った。

「…っく、あのヤロー」


その後、静まり返った医務室に、はぁ〜と重い溜め息が響いた。

何でいつもこうなる…
何であんな事を言っちまうんだろう…

ハヤテは、彼女を前にするといつも素直になれない自分を、遣り切れないと抱えながら、先程、七緒が覗いていた本の前に立った。

開いたページには花の絵が美しく画かれている。

真っ直ぐに伸びた緑色の茎と、その根元からシュッと外に弧を描くようについた細い葉、微かにお辞儀をするように付いた真っ白い花びらは、大きいのと小さいのが三枚ずついている。

この花が、あいつは好きなのか…


『…控え目なようでいながら凛として自分をしっかり持っている感じ…』

ソウシがイメージした七緒だ。



その花には『スノードロップ』と名前が記されてあった。





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