novel (short : others)

□ひねた紳士
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航海士にとって唯一、気を休めることが出来るのが寄港先での停泊中の夜である。

停泊一日目の昨夜は、いつものようにバーを飲み歩き貴重な情報を入手した。

二日目の今夜は誰にも邪魔されず部屋で独りの時間を過ごしたい。

停泊中にしか望めない貴重な時間である。


ところが、船内が先程から騒がしいのだ。
ドアが勢いよく開閉する音やドタドタと床板を踏み抜くような足音。

どれもが耳障りだ。

ベッドの枕を高く積んで背もたれにしていたシンは、読んでいた分厚い古い書をパタンと閉じ、空を睨んだ。






ナギは、先程も確認したバスルームを再び調べて出てきたところで、部屋のドアを開け、腕組みをして待ち構えていたシンに出会した。

「ドタドタと騒がしいから、ハヤテかと思えば…お前か…何事だ」

「…ああ、悪かったな。寝ているの起こしちまったか?」

ナギはボソリと謝るとそのまま通り過ぎた。

ナギが何時になく慌ただしい行動をしているのは、七緒を探しているからだということが、シンには直ぐに分かった。

「…やれやれ、飼い主が子犬探しか?そんな血眼で探したって見つかるワケがない」

ナギの足を止めるのは簡単だと、振り向いたナギを鼻先で笑うシンである。

「何処にいるか知っているのかっ?」

「…!…」

そのナギの形相だけで、どれほど七緒の行方を心配しているのかが一目瞭然である。

シンは、元々、他人の恋愛事などどうでもよく興味がない。

なのに、ナギの彼女への想いの強さに触れ、一瞬、神経が引きつれた。

一度だって七緒に惹かれた覚えはない。
女としての魅力を兼ね揃えているヤツでもない。あんなタイプは全く好きではない。

それでも、彼女が旅の仲間となり日々を過ごすうちに、何時しか執拗に彼女をからかい虐めている自分に常々、疑問を抱えていた。

七緒がナギに恋心を抱いていること、ナギも彼女を想っていることには、誰よりもいち早く気づいていた。

別にくっつきゃいいだろ…

そう気にも留めずにいるつもりで、邪魔してやりたい思いも止められずにいた。

二人ができちまった未だにか…?



シンは、そんな自分を一番気に入らず呆れたまま、嫌みな仮面が覆うのも止められなかった。



「…お前ら、さっき喧嘩していたよな?」

「…聴いてたのか?」

ナギは眼を細め怪訝そうな顔つきになった。

「人聞きの悪い言い方だな。『聴いた』ではなく『聴こえた』だけだ。それにしても随分と今夜のアイツは『イヤイヤ』と聞き分けがなかったようだな…お前、無理矢理、嫌がる体勢にでもしてヤッたのか?」

「違っ……聴こえてたんならそんなんじゃねーこと知ってんだろーがっ」

「ああ、知ってる」

シンは悪びれずに答えた。

「アイツのベッドでの鳴き声がもっと違うことは、毎晩、嫌でも聴かされるこの耳が記憶しているからな…」

「…っ…」

既に赤面し動揺するナギを、シンは面白がるように冷笑した。






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