novel(short : nagi)
□babysitter
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シャワーを浴び終えてバスルームを出ると、ベッドに腰掛けソウシの診察を受けている七緒と眼が合った。
「ナギッ…」
声を発した途端、コホコホッと咳込んだ彼女にソウシが注意を与えた。
「七緒ちゃん、まだ大声は出さない方がいいよ。大丈夫だとは思うけど、声帯に強い圧迫をかけられたようだから、今は無理に声を出さないで」
ソウシが部屋を出て行くと、七緒はナギを見て安心したように微笑んだ。
ナギはタオルで濡れた髪をゴシゴシ乾かしながら、ベッドの端に腰掛け七緒を見つめた。
「…お帰りなさい」
小さな声で告げてくる久しぶりに聴く愛しい声は掠れている。
「お前…鍵を掛け忘れたなんて、つい、うっかりじゃ済まねーことになるところだったんだぞ」
「はい、本当にそうでした…」
ナギの厳しい眼差しに映る彼女の瞳は落ち込み、充分反省しているようである。
昨夜も、相当シンに叱られたに違いないとナギは思った。
「…で、昨夜シンはここに居たのか?」
「しばらくは……でも、私、何時の間にか眠ってしまったので、何時まで居てくれたのか分からないんですけど…」
ナギの脳裏に先程の明け方に、ドアの前に立つガウン姿のシンの姿が浮かんだ。
一晩中ここに居たのか?
きっと間違いではない推測を追い払うように、ナギは七緒を抱きしめた。
『お前が戻ったところで、アイツのお守りから、ようやくお役目ご免だよな。あんなアホは懲り懲りだ』
そう言うシンの瞳が、心なしか淋しげに映ったのは考え過ぎだろうか…
「…ナギ、帰ってきてよかった…」
可愛い呟きが耳元に熱を吹き込む。
「…ったく、何処までも心配かける奴だな」
額と額をくっつけてナギは困った奴だと笑った。
「…ごめんなさい」
「二日分の心配を償うか?」
「え?」
唇を重ねると、直ぐに熱は昂まり、滑り込んだ舌は激しく七緒の舌を追い求め絡ませた。
「…ふっ…ん…」
甘い声にぞくりと震えた。
指を絡め握ったまま、七緒をベッドへ倒したナギは、一度、唇を放して上から見つめた。
熱を帯びた瞳は、昂ぶり抑えきれない想いを真っ直ぐに伝えてくる。
苦しいほど求められ、愛し愛される二人だけの時間の扉が開かれようとしているのだ。
「…ナギ…あの…もう直ぐ朝食だって、さっきソウシさんが告げて…」
「おい、こんな時に他の男の名前なんか出すな」
「……」
「いま欲しいのは飯じゃねぇ…こっちだ…」
そう告げたナギの唇が、また七緒へと落とされていった。
2012・01・18